てきすとぽい
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第34回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
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てんごくとそら
(
有理数
)
投稿時刻 : 2016.08.21 01:44
字数 : 1000
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てんごくとそら
有理数
君は「あな」を「てんごく」と呼んだ。でもや
っ
ぱり天国は空にあると思う。
例えば、涙が溢れるとすると、や
っ
ぱり見上げるのは空なんだ。目からこぼれ落ちた雫は、空とは反対に、それこそ「あな」に向か
っ
て落ちていくんだ。涙の行き着く先を君は知
っ
てるかい?
心の奥深い穴に落ちていくんだよ。渇くことのない水たまりに。
いつか心から溢れてしまうんじ
ゃ
ないか
っ
て?
そうなんだ。いつか堪えきれなくな
っ
て、心が涙でい
っ
ぱいにな
っ
て、洪水のように溢れてくるんだ。そうな
っ
たら、心はどうなるか、わかるかい?
壊れてしまうんだよ、まるで「あな」に落ちていくように、いつまでも底の見えない暗闇を永遠に漂うことになるんだ。
君はき
っ
と、悲しみは空に昇
っ
ていくものだと思
っ
てる。
君は、いつも空を見上げていた。朝も、昼も、夜も。悲しい時も、嬉しい時も、君は空を見上げていた。君だけが「あな」にいるだなんて、とてもじ
ゃ
ないけれど信じることができない。君は空を見上げて、僕だけが下を向かないといけないだなんて、何の冗談だ?
分か
っ
ている。
君は、僕を置いていくことを本当に気にかけていた。あの僕を気遣う瞳を思い出すんだ。自分のことよりも僕のことばかり気遣
っ
ていた、君の淋しげとも悲しげともとれるあの瞳を。
まるで罪深いことをしでかしたかのように、君はてんごくを「あな」と呼んだんだ。自分の身体のことだ、気づかないはずもない。あの頃から、思い起こせば君は「てんごく」への階段を昇り始めていたんだ。
君は「そら」にいる。僕も、君がそうしていたように空を見上げる。朝も、昼も、夜も。君がそこにいるような気がするから。
優しい声でもう一度呼んでくれないか。そうしたら、涙も嫌じ
ゃ
ない気がするんだ。
僕ももしかしたら、「てんごく」の階段を昇ろうとしているのかもしれない。心が壊れる前に。僕にと
っ
て、君は本当に眩しいくらいの青春だ
っ
た。あれ以上の輝きはき
っ
と、もう見出すことはできないと思う。
君と約束したあの「そら」を。
叶えたら、き
っ
と僕は迎えにいく。そこがどんな「あな」だ
っ
たとしても。
僕は、君の約束を守ろうして、結果的に大切な友人を自分の手で捨て去
っ
てしま
っ
た。君にと
っ
ても大切な友達だ。僕にと
っ
て生きがいのひとつだ
っ
た歌も、君の後を追
っ
て吸い込んだ死の煙で、まともに歌えなくな
っ
てしま
っ
た。僕にはもう本当に何もない。
君の迎えを待たないまま、旅立つ僕を許してください。
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