とぶ
水中を高速で泳ぐことができる僕は、ペンギン。
鳥の仲間である僕らは、飛ぶことができない。前、お父さんにこうや
って聞いてみたことがある。
「なんで僕らは飛べないの?」
お父さんは何も答えてくれなかった。
ある日散歩をしていると、フワフワした白い玉に出会った。
手でちょんちょんってつついてみると、勢いよくそれは立ち上がった。
あの子たちは「ウサギ」だった。ぴょんぴょんと跳ねて遠くへ逃げて行った。
その日から、僕は「ウサギ」になりたいと思った。
飛ぶことができない僕は、せめてあの子たちのように跳ねて「飛びたい」と思った。
何度も跳ねて飛ぶ練習をしたけれど、ほんの少ししか飛ぶことはできなかった。
いつもみたいに飛ぶ練習を繰り返して、疲れ果てて眠っていた。
すると、夢の中に神様が出てきた。
神様は「飛びたいか」と聞いてきた。僕は素直に「うん」っていった。
いきなりの事だったから混乱したけど、これで飛ぶことができると思うワクワクの方が強かった。
夢から覚めた。僕は「ウサギ」になった。
初めは実感がなかったけれど、ぴょんぴょんと跳ねると、とても高くまで飛ぶことができた。
自分の夢が叶う。そう思っただけで死んでしまいそうだった。
しばらく周りをぴょんぴょん跳ねていたら、石でできた建物を見つけた。
僕は乗ることのできる足場を頼りに、その建物を上ることにした。
無造作に並べられた大石に乗って、次の石に飛び乗った。少しずつ地面が無くなって、次第に足場が空中にあることに気が付いた。
また一段一段昇って行くごとに連れて、緊張感と恐怖が僕を襲った。それと同時に興奮した。
しばらく上ると、これ以上昇れない場所にたどり着いた。
ペンギンだった僕には絶対に来ることができなかった場所。感動だけが心を支配した。
降りるのが面倒だったから、近くの海に潜ることにした。ぴょんと飛び降りて、空中を切って落ちた。
後ろを見ると、今まで登ってきた石達が綺麗に連なっていた。これが鳥が見ている景色。僕は幸せだった。
僕らは鳥だ。だから鳥にはならなかったけど、「ウサギ」になったことで鳥と同じ景色を見ることができた。
「ウサギ」になることで夢を叶えることができた。
あの夢に出てきた神様が誰なのかわからないけど、僕は感謝の心でいっぱいだ。本当にありがとう。
そうして海に潜った僕は死んだ。
そして僕はやっと理解した。
「ウサギ」にできなくて「ペンギン」にできること。
それは海を飛ぶこと。