てきすとぽい
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第34回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
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空へ降りる
(
大沢愛
)
投稿時刻 : 2016.08.20 18:55
字数 : 1000
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空へ降りる
大沢愛
凛が屋上から飛び降りたのは五月だ
っ
た。
まだ、コンクリー
トの照り返しで目をやられる心配もなくて、全身が熱気のお湯に揺蕩う感覚にも襲われない頃だ
っ
た。
八月の陽射しは容赦なく、手摺りはす
っ
かり焼けていた。タオルハンカチを手摺りに巻かないと、とてもじ
ゃ
ないけれど持
っ
ていられない。
中学までだ
っ
たら、私と凛とは絶対に友だちになんてならなか
っ
たと思う。やんち
ゃ
な子たちとつるんでいた私にと
っ
ては、びくびく図書室へ逃げ込んでいた凛なんて相手にする理由がなか
っ
た。中三にな
っ
て、ち
ょ
っ
と人間関係をしくじ
っ
た私は、ワルのツレたちとは別の高校に行くことにな
っ
た。にわか勉強がハマ
ッ
て、地区でいちばんの進学校に滑り込んだ。明らかににおいの違う連中の中で、私は浮いた。とりあえずつるむ相手を物色していたところに凛がいた。
ま
ぁ
、アンタも友達がいないタイプだしな、凛?
むりやりそばにいても、助けを求める相手がいない。
最初は本気で嫌が
っ
ていたと思う。でもそのうち、何も言わなか
っ
た凛が少しずつ話し始めた。
ようするに、この世界が嫌だ
っ
てんだな。この世界と一緒にいたくない
っ
て。
何言
っ
てんだコイツと思
っ
たよ。ヘンな本の読み過ぎでアタマがイカれちま
っ
たんじ
ゃ
ないか、
っ
てさ。でも凛のやつは真剣だ
っ
た。
「いつか、この世界から飛び降りてやる」
喧嘩のひとつもできないくせに。そんな度胸なんてないだろ、と高をくく
っ
ていた。
いちおうは友だちだから、私は凛の話は笑わずにぜんぶ聞いた。私に分からせようと、一生懸命に話す凛を見ていると、なんだかいじらしい気がした。
そして五月のあの日、とうとう凛は屋上から飛び降りた。
掴んでいた手摺りを放すと、凛の身体はあ
っ
という間に空高く舞い上が
っ
て、見えなくな
っ
た。
それきり、凛には会
っ
ていない。
凛の言葉を思い出す。この世界は猛烈な勢いで落下を続けているそうだ。懸命にしがみついている限りは問題ないけれど、掴まるもののないところで手を放せば、落下する世界から取り残されてしまう。
それを私たちは「降りる」と呼んでいる。
ゲー
ムから降りるみたいに。
夜空を見上げても、この世界から飛び降りた凛の姿は見えない。
ただ、こんなばかみたいに晴れ上が
っ
た夏空なら、もしかしたら微かな点くらいには見えるかもしれない。
もし見えたら思い
っ
きり叫んでやる。
「スカー
トの中が見えてるよー
、この馬鹿野郎」
くそ暑い夏は、まだまだ終わりそうもない。
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