第36回 てきすとぽい杯〈紅白小説合戦・紅〉
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おばと迷路とボク
投稿時刻 : 2016.12.10 23:29
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おばと迷路とボク
ra-san(ラーさん)


「迷路には必ず入口と出口がある。なぜなら迷路は迷うだけで路(みち)であることには変わらないからだ。目的地に行き着かない路は路ではない。だから出口という目的地に行き着かない迷路は迷路ではない」

 そんなことを小学生のボクに、自分の作た迷路をやらせながら言い聞かすおばは、大学でゲーツというのをやているらしい。

「でもこの迷路、ぜんぜん出口にいけないよ」

「答えはふたつ考えられる。まだキミが迷路に迷ているか、これが迷路でないかだ。どちらだと思う?」

 ボクが文句を言うとおばはメガネの奥の目を光らせて、ボクの顔をじと見ながら言た。おばはキレイな人で、年もお母さんよりボクに近いくらいだたから、ボクはこうやて顔を近づけられると、いつもどぎまぎしてしまう。お母さんの妹だからおばと呼んでいるけれど、ボクには大きいお姉さんがいるみたいに感じられた。このおばが家に遊びにやてくるのを、ボクはいつも楽しみに待ていた。

「迷路じなかたら、これなんなの?」

「さて、なんだろうか?」

 ふふふと笑いながら、おばがメガネの鼻の部分を指で押し上げる。おばがそうやてメガネを直すときは、いつも楽しそうな顔をしている。ボクはそんなおばの顔が好きだた。

「出口のない迷路だとしたら、キミはこれをどう思う?」

 おばはボクをキミと呼ぶ。ボクの名前はキミじない。けれどボクはおばにそう呼ばれるのも、なにか特別なものにでもなた感じがしてきらいじなかた。

「迷てるだけだよ」

「エクセレント」

 おばの白くてながい指がボクの顔を指さす。つやつやのおばの爪は宝石みたいにきらきらに光て見えた。

「その迷路みたいなものは、迷うためだけに存在するものだ。だから出口は必要ない」

 うれしそうにそう話すおばの言葉は、ボクにはまだよくわからない。

「それは迷いたいときに、好きなだけ迷えるために存在するものなんだよ。なんにでも出口があて、迷いは必ず解決しなきいけないだなんて、そんな迷いのない考え方は迷いに矛盾してるし、だいたいとても窮屈だろ?」

 けれどボクは、とりあえずおばともとこうしていたいので、出口のない迷路のなかをずとずと迷いつづけた。
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