第37回 てきすとぽい杯〈てきすとぽい始動5周年記念〉
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告白
投稿時刻 : 2017.02.18 23:42
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告白
塩中 吉里


 夕暮れ時、たそがれる通学路でもじもじと向かい合う一組の少年少女がいる。そのふたりを一つ手前の曲がり角に立つ電柱の後ろから見つめる怪しい男の影がある。おれだ。
 うららかな春の一日も終盤に近づいている。
 おれは今日こそ、今日こそ、今日こそナナキに愛の告白をしようと決意した。したのだ!……だがナナキのクラスメイトのミズオに一歩先んじられてしまたようなのだ。どうしたことだ、ミズオとナナキが顔を赤らめあて互いに見つめ合ているではないか……俺たち付き合わね? あ、待て、返事はまだ待てくれ。うん、ナナキには例の幼馴染がいるていうの分かてるんだ、俺。急にゴメンな。うん。返事はあとからで良いから。じあ、また明日。明日また学校で……だと? ミズオ、おまえというヤツは……つまり、ここはそのような場面なのだ。今日という決意の日になんたる悲劇! だがおれは、今日のおれは決意したのだ。おれはナナキに告白する。たとえ何があたとしても……これから何があろうとも! 意を決して、電柱の影から飛び出す。地平にかかる夕日よ、天を駆ける蝙蝠よ、ササナカ・タイシの雄姿を御覧じろ!
「ナナキ!」
 呼びかけるとナナキが驚いて振り返た。
「え、あ、タイシくん?」
「そうだ。おれだ!」
 困惑顔も愛しいぞ! だがいまはナナキの表情の変化を愛でている場合ではないのだ。おれの気迫に察するものがあたのか、ナナキがこわばた顔を向けてくる。なかなか勘が鋭いじないか、ナナキよ。だがおれは負けん!
「ナナキ……
 ナナキの肩を掴んで見つめ合う。ああ、つかみきれるくらいの華奢な骨格までも愛しいぞ!
「ど、どうしたの、タイシくん」
「ナナキ! おれ、おれは……!」
 鎮まれおれの心臓! 言うだけだ、ひとこと言うだけなんだ! 簡単だろうササナカ・タイシ! ナナキは幼稚園からずと一緒の幼馴染だ。カワイイ寝小便もカワイイ七五三もカワイイ入学式もカワイイ高校の制服姿も……憎らしいクソ初彼氏も……全部見てきただろう! いまさら、なにを戸惑う? さあ言え、言うんだ、ミズオがナナキを奪い去る前に!
「ナナキ! おれ……! おれは!」
 言え! 言えたら! ここで伝えなくてどうする? あのクソ初彼氏はナナキの良いところにちとも気がつきやしないで別れやがたが、これから先、ナナキの出会う男がみんな見る目のないバカばかりとは限らんのだ。だからおれが……ナナキ……おれがナナキを……
「タイシくん」
 う、な、な、ナナキの顔が赤いぞ……眼もウルウルしてるぞ……こんなの聞いてない……! こんな……いや、おれは、煩悩を振り切るんだ! おれは真心をナナキに捧げるんだ! 誠心誠意を伝えるんだ、さあ、言え、十五年間の、とておきの気持ちをぶつけるんだ! さあ!
「おれ、おまえの、ことが……」言え! 言えよ!「おまえの……ことが……ちくしおおおおお!」
 おれは逃げた。
 ナナキが泣いていたのだ。
 あの涙は致命の刃だ、逆らえるものか。夕日よ蝙蝠よ、おれを嗤うがいい……。いや、違う。今日のおれは違うだろう! 決意したんだ。何があろうとも、愛の告白をやり遂げる、そう誓たのだ、夕日と蝙蝠に! 待ていろナナキ、おれはおまえに愛を告げるぞ!……おや、いつの間にか大通りまで来ていたか……む? あの建物……これは折よく……天の采配だ! お邪魔します!
「臨時ニスをお伝えします。本日午後十六時四十五分ごろ、福岡県古賀市のうわとちとなんなんですか、ちと、ちとデレクター! なんか変な子がスタジオに! いま生放送中なんですよ! ちとやめてくださいよ、カメラさんこのヒトちと追い出して、手伝て、あ、ちとホントだめだてやめて、やめて! あマイク……ガガ……ピーガガ……
 えー、ごほんごほん。これマイク入てるのか? ん? ンン? うん。よし。言うぞ。おれは! 言うんだ! 言うからな
 おれ……おれは! 臨時ニスを伝えたい。あふれだす想いを伝えたい
 ナナキ!
 フクウラ・ナナキ!
 県立第四高校、一年四組出席番号三十一番フクウラ・ナナキ!
 おれは! ナナキが……! 
 ナナキのことが……
 ナナキのことが
 ナナキの、こと、があ
 す
(砂嵐)
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