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第41回 てきすとぽい杯
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列車狩り
茶屋
 投稿時刻 : 2017.10.14 23:33
 字数 : 1767
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列車狩り
茶屋


 踏切を通り過ぎる列車はぎしりと人が詰まていた。次第に遠ざかていく走行音を聞きながら、もう、冬は近くまで来ているのだなとしみじみと感じる。列車は巣ごもりに備えて、乗客たちを蓄えているのだ。厳しい冬の間の大事な栄養源であり、巣を補修するための労働力にも巣材にもなる。栄養源としては他の生物には劣るのだが、何より集団で捕らえやすいのと、食物以外の用途にも使えるということでこの季節になると列車は好んで人を集めるのだ。
 稲の刈られた田園の線路を駆け抜けていく車体を遠くに見やりながら、私はかつて出会た奇妙な人物の事を思い出していた。高級そうなスーツを着こみ、いかにも上流の人間でございといた様子の姿だが、話してみれば物腰は柔らかで、決して驕たような態度は見せない。まさしく紳士、といた感じの初老の男性だ。ただ一つ不思議なのはモノクルをかけているという点だ。本物のモノクルを見たのはそれが初めてだた。いかにもな紳士が片眼鏡をかけているというのが、なんとも古い写真の人物がそのまま抜け出てきたのではないかと思えるようであた。
「私は、乗り鉄なんですよ」
 それを聞いた時、目を見開き口をあんぐり開けていたかどうかは定かではないが驚いたことは間違いがなかた。乗り鉄は、いわばハンターだ。列車たちを追い、撮り鉄たちと連携して、あの線路の巨獣を仕留めるのだ。その肉や外装はなかなかの大金になるとは聞いていたが、遠い世界の話だとばかり思ていたのだ。それにそういた連中は筋骨隆々で粗暴の荒い連中とばかり思い込んでいたのだから、なおさらだ。
 彼と出会たのはまだ初夏の頃だた。列車地もまだおとなしく線路の上を走ており、99.9%は乗客をもとの形のまま吐き出している。列車のせいで心身に異常が出てしまうのはある程度は仕方がないことなので、それを利用するのは覚悟の上なのだ。我々下層民にはほかに便利な移動集団などないのだから。声がデスボイスに代わてしまた美少女が駅前で被害を訴えているが、あれぐらいならまだいい方だろうと思う。私のほうは虫が見えるようになた。羽虫から蝶、蛾、大きめの甲虫にトンボ。それが仮想通貨の流れの中に生態系を作ている虫だ。その虫の流れを把握すれば、もしかしたら金儲けに使えるかもしれないとも思たりするのだが、一向にとかりを見つけ出せずにいる。
「君も、乗り鉄にならないかね」
 あの紳士はデスボイスの女に声をかけていた。デスボイスであること以外は一見普通の女の子だ。それともデスボイスが列車を狩るうえで有用な効果を生み出したりするものなのだろうか。

「エンデングノートだ。狩りの日までに書いておきなさい」
 列車狩りは危険な仕事だ。その中で死ぬものも多い。だから死後の要望についてはいろいろと今から書いておけというものなのだろう。
「家族が、いないんですが」
「それでもかまわんよ。行政に対して部屋や端末、貯金の用途を指示すればいいんだ。本当に家族がいないのなら先に行政と詰めておいてもいいかもしれない」
 何もないと思ていた死後の世界を考える。人生の線路の先には何もないのに「その後」まで考えなきならないなんて。
「あまり重く考えなくてもいい。これは儀式的な側面もあるから」

「ゴトンゴトン……ゴトンゴトン……ゴトン」
 デスボイスが地面にうつぶせになて電車の音真似をしている。列車をおびき出すための音らしい。声真似だけだた音がやがて本物の振動を携え共振を始める。
「来た」
 男たちは小さく言うとそれぞれの獲物を手に立ち上がる。銃、槍、刀、思い思いの武器を携えた男たちは真剣な顔になてそれぞれ位置につく線路の前方には倒木がある。そこで列車の動きが緩また時、狩りは始まる。
 蝶が、舞ていた。本物か幻覚かはわからない。だが、美しく幻想的なそれは私の手の甲に止また。
「い゛ま゛だ!」
 デスボイスの声が起点となて、我々が一気に攻撃を開始する。それに反応するかのように列車は動き出すと同時に、ドアが開き屈強な人もどきが倒木を退けた。列車が動き出す。私が蝶の乗た銛を思いきり投げつけるとそれは車体にうまく食い込んだ。駆けに駆け、そして飛んび、張り付いた。
 列車に張り付けたのは5人だけだ。不敵な笑みの紳士はいう。
「さあ、狩りの時間だ」
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