てきすとぽい
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第41回 てきすとぽい杯
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ろーりん
(
古川遥人
)
投稿時刻 : 2017.10.14 23:44
字数 : 2744
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ろーりん
古川遥人
スマー
トフ
ォ
ンのアラー
ムで目が覚める。時刻は午前六時半。今日も仕事に出かけなければならない自分を憂鬱に思う。しかしながら体はプログラムされたように動いている。歯磨き、洗顔、それから精神安定剤を飲み、着替える。僕はそのまま家を出る。決められたルー
ト。坂道を下る。イヤホンを耳にはめる。曲はシ
ャ
ッ
フル。全部聞いたことがある曲。新しさなどそこにない。バスに乗る。決められた時刻にや
っ
てくる。僕は時々考える。この乗り物は実は相当に速いスピー
ドで走れるのではないか。しかしバスもまた決められた時刻に決められた速度でしか走れない。彼はき
っ
と速い。新幹線にぎりぎり勝てるはず。それは僕だけしか知らない。くだらないことを考えている間にバスは駅に着く。扉が開く。乗客が降りる。僕も降りる。運転手もなぜか降りる。僕たちは示し合わせたように同じようなスピー
ドで改札を通過していく。一斉に飲み込まれ、あるいは吐き出されていく僕たち生物を、外部の生物が見たらどう思うだろうか。どうも思わないだろう。どうでもいいだろう。例えば僕は蟻が行列を作
っ
ていたところでどうでもいい。それと同じ。僕は電車を待つ。みな律義に列を作り待
っ
ている。たまに列から外れた人物がいる。それが僕だ。僕はあえて列から外れたい。それもまた人間の思考にプログラムされたくだらない行動だ。僕は僕という概念から外れることはできない。そう思
っ
て少しだけ笑わない。僕はいつだ
っ
て笑わない。自分で自分に微笑みかけない。そう思
っ
て少しだけ笑う。なぜか空を見上げる。いい天気だ。雲が一つもない。例えようもない青色が、気持ちのいい青色が覆
っ
ている。こういう日は、実は年に3回ほどしかない。と、さま
ぁ
~
ずがテレビで言
っ
ていた。僕もそう思う。どうにかな
っ
てしまいそう。それが気持のいい天候。電車が到着する。今日はこの世界からドロ
ッ
プアウトした人はいないらしい。や
っ
てくる電車に飛び込めば、僕はこのルー
プから抜け出せる。そして少しだけ皆の日常を狂わせることができる。それは危険な思考だ。でも今日はいい天気だから。電車の扉が開く。掃除機のゴミみたいに吸い込まれていく。電車の扉が閉まる。僕は電車を見送
っ
ている。どうした。なぜ乗らなか
っ
た。僕はあれに乗らなければならなか
っ
たのに。あれに乗
っ
て会社に行
っ
て、精神をすり減らさなければならないのに。でも乗らない。たぶん、天気がいいから。
ホー
ムの反対側から違う方面へ行く電車がや
っ
てくる。僕はなぜかそれに乗る。扉が閉まる。アナウンスが響く。窓の景色が後ろに流されていく。どんどん知らない風景が提示される。どこへ行けばいいんだろう。なんて、くだらないことを考えるべきじ
ゃ
ない。熊のプー
さん。君は言
っ
ていたね。僕は考えないを考えているんだ。本当に? そんなこと言
っ
てた? 嘘だ。そんなこと言
っ
てない。でも僕は自分が生み出した熊のプー
さんの名言に従う。僕はどこへも行かない、という場所に行こうとしている。イヤホンを耳にはめる。シ
ャ
ッ
フル。に任せる気分ではない。好きな選曲をしてしまえ。僕はDJだ。今から僕は、僕の中で最先端の音楽で僕を刺激する。最高のDJになるのさ、ワ
ァ
オ! 普段は聞かないような曲だ
っ
て選んじ
ゃ
う。西野カナ。ゆらゆら帝国。The
town
need
guns
。槇原敬之。なんだ
っ
て聞いち
ゃ
う! 今から僕の脳内は、僕のためのプライベー
トクラブ、パー
テ
ィ
。たくさんの女の子を呼んで、セ
ッ
クスだ
っ
て決めてやる。僕の頭の中はただいま大変なことにな
っ
ております! みなさん気を付けてください! 僕の頭の名は、大変なことにな
っ
ております! 一時間半のプライベー
トクラブパー
テ
ィ
の後に、終着駅、浜松、ここはどこだ。とても有名な町であるのに、僕はここへ来たことがない。日本の中に、自分が一度も行
っ
たことのない場所なんて、無数にありすぎて、僕は戸惑う。テレビで知
っ
た気にな
っ
ている。ネ
ッ
トで行
っ
た気にな
っ
ている。僕はその狭い幻想から出ていない。僕は部屋の中からほとんど出ていない。でも今の僕は幻想から飛び出している。僕は浜松の空気を吸
っ
てから、も
っ
と遠くへ行こうと思う。そこに意味があるのか。知らない。どうでもいいじ
ゃ
ない。と、頭の中でプー
さんが言
っ
ている。通学中の女子高生がいる。たぶん彼女は遅刻だろう。でもそんなことはどうでもいいはずだ。僕だ
っ
てもう会社とかどうでもいい。ただ遠くへ行きたい。この島国から脱出をしたい。僕はどこまでいけるんだろう。僕は電車を乗り継ぐ。ひたすら乗り継いで、改札を出ないで、ただ、ただ、遠くへ行きたい。ある意味では、僕はもう乗り鉄なのではないか。僕はざまざまな電車を乗り継いでいく。き
っ
と天気がいいから。昼までに名古屋に着く。私鉄にも乗る。僕は今どこにいるのだろう。どこへ行きたいのだろう。なんていう陳腐な感傷はどうでもいい。今気になるのはただ一つ。どの電車でもアナウンスの声がほとんど同じだということだ。なぜだ。決められているからだ。知
っ
ている。でも例えば、ラ
ッ
プをしながらアナウンスをする車掌がいてもいいのではないか。フリー
スタイル、即興で思いをライムに乗せ、到着時刻、駅順を皆様にお届けするぜ、ニガー
、車内からの衝動、怒られて上等、炎上騒ぎで大騒動、ヘイDJ、チキチキ回せ、皿を、車輪を、音楽も電車も何かに突き動かされ先へ進み続けている。似ている。ラ
ッ
プだけじ
ゃ
ない。あるいはデスボイスの車掌がいるべきだ、車掌とはマイクパフ
ォ
ー
マンス、車内の客の一つ一つに感情を置いていくべきだ、車輪が奏でるビー
ト、喧騒がリズム、やがてメロデ
ィ
ー
になり、そこから詩が生まれる。デスボイスは時速百キロを超えて街を突き破
っ
ていく。またもやくだらない妄想だぜ。会社から離れるごとに、僕は壊れていく。社会から離れるべきではない。思考はどんどんおかしくな
っ
ている。でも僕は社会の輪から外れて、どんどんどんどん遠くへ行きたい。どこへ行くべきか分からない。でも先へ進みたい。でも結局、地球はルー
プしているね。そんなことどうだ
っ
ていいけど。だ
っ
て天気がいいから。当たり前よねー
。しかし、いつの間にか僕は、もう時間が忘れるほどこの電車に乗り続けている。ような気がする。もう五十年ほど経
っ
ているのではないか。僕は張り巡らされた、その電車に乗り続けてどこへも行けてない。まだこの国を出る列車は開通しない。周りを見渡せばすぐに乗客は入れ替わる。どこかで脱線して衝突すれば、と考えるけれども、まだ電車は回り続ける、朝の匂いに運ばれて、気持ちのいい青い空に運ばれて、回り続ける、イヤホンの中の音楽に運ばれて、回り続ける。回り続ける。ろー
りん。あの頃の夢に運ばれて
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