安眠文学
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投稿時刻 : 2018.04.09 14:24 最終更新 : 2018.04.21 22:15
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- 2018/04/21 22:15:53
- 2018/04/09 22:33:03
- 2018/04/09 20:03:10
- 2018/04/09 14:24:59
布団
たかはし@普通種を愛でる会


主は言われた、

『私の故郷では、夜、布団に入ることを「布団を着る」と言う。寒い夜などは、おやすみなさい、と母に言うと、ちんと布団着て寝られー、などと言われたものである。

布団は衣服である。これは方言ではなく、真理である。

部屋の明かりを消して、一人布団を「着ている」状態こそが、最も心の平穏が保たれている、人として正常な状態なのである。

万人がこのことに気付けば、布団を「脱いで」、いわば精神的に裸な状態で会社なり学校へ向かう行為が、いかに無謀で危険であるかがわかるであろう。

そして、それに贖いたい、「布団を脱ぎたくない」という強い気持ちが生じることにも理解が及ぶだろう。それはアダムとイブが林檎を食べて以来の原罪であり、本能的防御機構である。

この事実を最初に発見した作家は田山花袋であろう。代表作「蒲団」のラストシーンで、主人公が顔を埋めて匂いを嗅いでいたのは、女弟子の使ていた寝具ではなく、彼女が脱ぎ捨てた着衣なのである。

「早く布団から出なさい!」と叫ぶものに災いあれ。

人は生れ落ちてすぐに布団を着、死ぬと身を清めて布団を着る。イギリスの諺に「ゆりかごから墓場まで」というものがあるが、この国で言うならば「布団から布団まで」である。

つまり、布団はあなたという存在を包む衣服であると同時に、あなたの人生という書籍群を包むブクエンドでもある。敷布団と掛布団は一体であり、不可分である。決して無理にはがそうとしてはいけない。それはあなたの書籍群を崩壊させる。

今、あなたは布団を着てこの話を聴いている。

布団を着るものは幸いである。
その状態こそが、あなたの空間であり、あなたの時間であり、あなたそのものだからである。

朝寝坊に神の許しあれ。

ぽりと布団を着たあなたには、何の不安も脅威も及ばない。何物もあなたの許しなくあなたの布団を通過することはできない。

安心して目を瞑り、布団のぬくもりと肌触りに身を任せなさい。

アーメン。おやすみ。』
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