第43回 てきすとぽい杯〈てきすとぽい始動6周年記念〉
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死者蘇生
投稿時刻 : 2018.02.17 23:33
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死者蘇生
浅黄幻影


 男は最愛の人を亡くしてしまた。彼は彼女を生き返らせるために手を尽くした。彼女の身体に撃ち込まれた弾丸を抜き取りきれいにし、失血で死んだ身体に血液を満たした。そして考えられることをすべてしたところで、コールドスリープ棺桶で死者をそのまま眠らせた。
 ――こんなバカなことをしても無意味だ。彼女の美しい姿が見られる以外、なんにもならない。もし生き返らせられるとしても……いや、無理だ。組織はだいぶ死んでいるだろう。
 彼女を銃弾が襲てしばらくしてからだたが、彼が日常生活へと復帰しつつあるころ、死体へ施した異常な処置が吉報をもたらしてくれた。死体に興味があるという男がやてきたのだ。それも――死者を生き返らせられるという話を持て!
「死体を見せてくれれば詳細については話すさ……。へへ、あれだろ、コールドスリープは裸なんだろ? いいねえ、そういうの珍しくてね」
 こんな男に彼女を見世物として出すの耐えがたいことではあたが、しかし、死んだものを生き返らせられるのならば仕方がないのかもしれない。男はその変人を脇で監視しながらそのにやけた目を睨んだ。
 死体好きは、目を細めたり、ときどき鼻息を荒らげたりして彼女を凝視していた。涎まですすていた。男の方で止めるまで、ずとだた。
「ああ……そうだな、お別れするのは悲しいけど、約束だからな」
 死体好きは紙切れを一枚、渡してきた。そして昂揚したまま楽しそうに去て行た。


 男は紙切れに書かれた番地へ、車で棺桶とともに向かた。いささか立派な建物があり、そこには一人の老人が住んでいた。
「死者を蘇らせられるというのは本当なんですか?」
「金さえ払てもらえれば……ああ、老衰は無理だたがな」
 老人は家の先で空を見上げたり風の具合を見たりしていて、なかなか足を進めなかた。
「早くしてくれないかな! 私の彼女が生き返るのを待ているんだ!」
「そうかそうか……大切な人だろうからな」
 処置室と呼ばれた部屋に、男は棺桶を引いて運び込んで、処置台と呼ばれた壁にそれを立てた。老人は機材をいじて、何かしらの用意をしていた……が、それにしても、老人は動作が遅かた。足の運びも悪い。
 男はイライラした。望みは叶う直前なのに。
「足が悪いのか。手伝おうか」
 老人は違うと言た。
「これは私の仕事ではあるんだが、良心というものがあてな。なあ、やめた方がいいぞ、悪いことは言わない」
「どういうことだ、嘘だたのか?」
「蘇たところで喜んだものは、まずいない……
「何か不備があるのか? このコールドスリープじあ神経や筋肉がダメになるとか、全身の痛みが治まらないとか」
「そんなことはないが、似たようなものだ。みな、心に苦痛を抱えてしまう」
「心……
「さあ、一応、用意はできた。あとは作動させればいいんだが。死者が本当に生を望んでいるか考えた方が……
 男は老人が手に持たコントローラーを奪い、起動のボタンを押した。
「彼女は生きたかたんだよ。死の苦しみから解放しなくては」
 起動した蘇生装置は、コールドスリープの棺桶をまばゆい光で包んだ。そして徐々に冷凍が解除されていた。
 男の胸は締め付けられるようだた。
 ――大切な彼女、私たちの未来、これは希望の光だ!
 しばらくして光は収まり、完全に常温に戻た棺桶が現れた。自動でふたは開いたが、彼女は一向に出てこなかた。
「出てこないぞ! 失敗したのか!」
 老人はつらい目で男を見た。
「成功はしているはずだ。だが、だいたいはそうなる。覗いてみるといい」
 男が棺桶に駆け寄り、彼女の顔を見ようと中を見たが、彼女は顔を手で覆い、震えていた。
「どうした! どうしたんだ!」
「怖い、怖いの!」
「その人はまだ生き返たことを知らないんだ。まあ、しばらく様子を見るといい……
 二人は自宅へと戻た。少し落ち着いたものの、彼女は依然として怯えたままだた。
「何があても僕が守るよ。もと安心してくれ」
「そう言てあなたは、さき守り切れなかたじない」
 ――き。そう、彼女にとてはさきだ。
「もうそんなことはない。絶対に」
「もし私が死んだら、また生き返らせるつもり?」
 男は彼女の心が離れていることに気づいた。
「きみは、望まないんだね?」
「ええ。私が死ぬときどんなに苦しんだか、あなたはわかてない。あのとき焼き付いた記憶や恐怖と、ずと戦いながら生きていくのよ? こんなこと……あなたのエゴでしかないの! 私はあのまま死んでいた方がよかた!」
 男はやりきれなかた。自分の選択が二人のどちらにも意味がない、むしろ悪いことだと痛感した。
 その後、彼女は安楽死の道を選んだ。病院の処置室の前で男と彼女は最期の別れをした。
「生き返らせようなんて考えないでね。あれくらいの苦しみをそのたびに味わて死ぬんだから……
 薬剤で眠るように死んだ彼女を、彼は温かく見守た。墓石には彼女の意向により、次のような言葉が刻まれた。

『一度きりの人生を讃えよ――二度死んだ女――
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