第43回 てきすとぽい杯〈てきすとぽい始動6周年記念〉
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欲しいものはありますか?
珠樹
投稿時刻 : 2018.02.17 23:43
字数 : 1905
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欲しいものはありますか?
珠樹


「なにもいりません」
「え?」
 
 俺は思わず、目の前の後輩を二度見した。

「いやいや、そんな遠慮しなくても。結婚式の受付なんて面倒極まりないでし?引き受けてくれた御礼くらいさせてよ。じないと俺の気が収まらないし」
「いえいえ、お世話になてる先輩の結婚式の受付なんて、名誉こそすれ面倒なんて微塵も思いませんでしたよ。お気になさらず」
「いやいや絶対嘘でし
「いえいえ」
「いやいや」

 まるで漫才だ。いやいや、後輩女子と社員食堂の真ん中で漫才をする趣味なんて、俺には無いのだが。
 もしかして、俺の聞き方が悪かただろうか。腕を組んで、こんな漫才をする羽目になた経緯を最初から思い返す。


 発端は、というか一番の始まりは、先週末に俺が挙げた結婚式だた。
 

 といても何もそんな大げさな事はない。社内恋愛の末に晴れてゴールインした俺が式を挙げることになて、披露宴の受付をこの後輩女子に頼んだだけのことだ。本当だたら同期に頼むべきだたんだろうが、生憎と同期は男しかいなくて。新婦側の受付担当も偶然男だたから、男二人はむさくるしかろうと後輩の女子に白羽の矢を立てたわけだ。

 ちなみに俺はこの後輩女子が新人の頃の教育担当だたりする。だから、と言うわけではないが割と気安く頼めたのだ。

 さて、そんなこんなで結婚式は無事終わたのだが、今日になてふと『せかく引き受けてくれた後輩に御礼をしていない』ということを思い出した。奮発して何か欲しいものでも買てやろうかと『この間の御礼をしたいんだがほしい物はあるか』と何気なく聞いたところで返て来たのが冒頭の彼女の台詞である。


「え…そんなに俺から御礼されるの嫌?」
「そう言うわけではないですけど…お気持ちだけで結構ですよ。負担になるだけですし」
「そんなことは無いんだけどな

 あんまりしつこくするとセクハラと疑われるかな、と思いつつ、首を捻る。おかしい。普段ならもと図々しい筈なのに。『先輩のお金で焼き肉が食べたい』て随分前に言われたこともあるくらいなのに。さすがに冗談だと言ていたけれど、それにしては目がマジだた。

「でもほしい物くらいあるでし?言てみなさいよ、肉でも魚でも奮発するよ?」
「私そんなに食いしん坊キラじないんですけど」

 いつもはパチリと開かれている大きな目が、今はじとりと細められて俺を睨む。怖い怖い。

「ほしいものならありますよ」
「え?あるんじん。言てみなよ、言うだけタダだよ?新婚の今の俺なら太腹だからうかり買うかもよ?」

 わざとらしく茶化しながら先を促す。でも、後輩女子の顔は晴れないままだ。
 それにしてもおかしい。いつもだたらこういうノリにはついてきてくれる気さくな後輩なのに。

「先輩には絶対買えませんよ。買えないし、作れないし、私に絶対渡すことも出来ません」
「なにそれ。なんでそんなに断言できるの?」

 それて何?教えてよ。
 思わず声に少し怒気がこもてしまた。怖がらせただろうか。けれど、後輩とはいえ他人に『お前には絶対無理』と言われることは我慢できない性分だ。こいつだて俺のそう言うところをよく知ているだろうに。

「私が欲しいのは、先輩の心だからです」
「…え?」

 一瞬、何を言われているかわからなかた。俺のココロ?

「多分、一目ぼれだたんだと思います。私は貴方に追いつきたくて、隣に並んで同じものが見たくて、ずと頑張て来たんです。私、貴方の心が手に入るなら何もいりません」

 ありきたりな言葉を使わないのに、いやだからこそますぐ気持ちが伝わて来た。そうだた。新人の頃から、コイツはこんな目をして仕事に打ち込んでいた。てきり仕事が好きなんだと思ていたけれど、求めていたものは全然違たんだ。
 言われた俺は、どういう感情を持つのが正解なんだろう。ただ単純に、うれしいと思てしまた。目の前の彼女に恋愛感情は浮かばないのに。
 でも誰かにこんなに望まれることが嬉しくない訳ないだろう?それが、可愛がていた後輩ならなおさら。

「じあ、俺はどうすればいいんだろうな。心は奥さんにもう預けちたから、お前にはあげられない」
「でしうね。でもそれでいいです。心は本当に欲しかたけど、今でも欲しいですけど、人の幸せを壊してまで欲しくありません」
 
 後輩女子はそう言て、スと立ち上がた。つられて視線を上にあげると、時計が目に入た。そろそろ午後の始業の時間だ。

「だから先輩、私はなにもいりません」

 奥さんと仲良くしてくださいね。

「ああ、約束するよ」

 きとそれだけが俺が彼女に返せる、精一杯の御礼なんだろう。馬鹿な俺は、そう思た。
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