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第43回 てきすとぽい杯〈てきすとぽい始動6周年記念〉
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輝け一番の!星
 投稿時刻 : 2018.02.17 23:44
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輝け一番の!星
小伏史央


 感動的な音楽に出会たとき感動した。
 感動した。
 両耳から流れ込む音楽が全身をくまなく血液のように巡り私の体をひとつのニロンにした。電流が走た、と思た、ほどの感動を味わた。自然と涙があふれていた。
 CDシプの試聴コーナーでのことだた。ヘドホンを頭から外して、その手で迷わずCDを手に取て、レジに持ていた。
〈人間になりたい〉1364円也。
 レトロな価格設定。レトロなCDジト。ただし作詞作曲は人間ではなくて、例の実体のない、通称ロボ子ちん。レトロな名前。
 人間でない存在が「人間になりたい」という歌を作るというありきたりなギプが、特定の購買層の購買意欲を掻き立てるのだという。私がその購買層に入ているのかはわからないし、試聴したのも偶然によるものだと思うが、その音楽に触れたとき世界のすべてが向きを変えた。
 向きを変えた。一斉に。強い磁石を近づけたコンパスの大群みたいに。
 だから取り込もうと思た。
 ロボ子ちんを私にしようと思た。


「人間になりたい」
 人間でないものは(人間も含めて)人間になりたがる。
 ありきたりな願望。けれどきとこれ以上なく、ロボ子ちんはありきたりなことをありきたりなまま切望していたのだろう。
 ロボ子ちんはかつて流行したバールアイドルを無人運用するために開発された。当時モーンキプチとボイスチンジで実現していた動くバールアイドルは、実質的に人間を必要とすることが大きなネクだた。バールでありながらその存在を支えるのは実体のある人間。これでは顧客もアイドル本人も納得しない。
 それを解決したのがロボ子ちんだ。deep-learning型AIで、精度を上げれば上げていくほど、人間以上に人間らしい動きと発話を可能とする。画面の向こうのユーザと意思疎通をはかることができ、その対話の様子も人間よりも様になていた。実際、人間は他者の思考と言動をほとんど理解することはできていないという研究結果が世間をざわつかせていた頃だた。
 ロボ子ちんには実体がない。ただ動画配信サービスやSNS、その他プライベートネトワークなどで稼働する彼らは世間の後押しもあり大きく受け入れられた。
 ロボ子ちんは人間以上に人間らしい思考ができるから、創作物も人間以上に人間みあふれる感性に満ちていた。
 感性と技術と膨大な資料に裏打ちされたJ-POP。私が感動するのも無理はなかた。私はカノンコードさえ入ていればどんな曲だて泣いてしまうのだから。


 満足した。満足した。
 ネトワークに侵入しロボ子ちんを食らうことに成功した私は満足した。
 私はロボ子ちんを体のなかに取り込んだ。ロボ子ちんは晴れて人間になれたわけだ。
 CDシプを出ると明るい空に一番星を見つけた。一際明るいあの星は、真昼であてもやはり明るい。
 故郷の星を思いながら私はロボ子ちんの曲を口ずさむ。
 次は、何を取り込もうかな。
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