第43回 てきすとぽい杯〈てきすとぽい始動6周年記念〉
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暗い部屋
投稿時刻 : 2018.02.17 23:29
字数 : 993
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暗い部屋
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 暑い夏だ。部屋の中は猫一匹、人間一人。
 僕は快適な空間で、ベドの上に寝転がていた。涼しい。息をする度ひんやりとした気持ちいい空気が肺に入てくる。だが、すぐに気持ち悪くなた。僕の猫は、枕のすぐ隣で丸くなている。
 しばらく天井を眺めてから、キチンへ向かた。食器棚からコプを取り出し氷を入れる。カランという乾いた音が部屋に虚しく響いた。それからサイダーを注いで、一気にゴクと喉へ流しこんだ。猫は少し離れたところからちこんと座て僕を見ている。
 ああ、夏だ。でもそれにしては暗すぎる。それもそのはず、僕は家の中にある全てのカーテンを閉めきり、僅かな明かりだけで移動しているのだ。
 猫は言た。「出よう、ここから」
 ますぐな瞳が僕に話しかけてくる。わかてるさ、こんな暗い部屋。季節感もくそもない。サイダーを無理やり飲み干し、少し気持ち悪くなたので、また部屋へ向かおうとする。
 「待てよ、そちじない。こちだ」
 振り向くと、猫がさきの場所から動かず、視線だけこちらへ向けていた。
 わかているさ、お前の気持ちは。もう暗い部屋はうんざりなんだろ? 僕と二人でいることに飽きてしまたのだろう? この部屋の何十倍も明るくて暑くて眩しくて、思わず目をつぶてしまいそうな空の下へ出て思いきり寝転がてみたいのだろう? 艶のいい毛並みが風にあたてふわとなり、みずみずしくて穢れを知らない目を僕に向けて、それから君は自分の持ている最大限の美しさを僕の前で披露するのさ。身体をくねらせて見せ、軽い足取りで遠くへ走て行き、それから、もう、君は見えなくなて、僕は君を追いかけようとして、暗い家から一歩踏み出すのさ。あまりにも眩しくて目が痛くなり、頭もなんだかくらくらして、思い通りに足は動かない。それから諦めて暗い部屋へ戻り、埃の溜また汚い窓から君の帰りを待つのさ。いや、待つのではない。絶望するのだ。
 気づけば足元には君がいた。ねえ、ねえ。やめてくれよ。さあ、早く部屋へ戻ろう。今日は美味しいご飯を特別にあげるからさ。頼むよ、なあ。もう僕に話しかけないでくれ。どこにも行かないでくれよ。
 僕は足が悪いわけでも、何か障害があるわけでもない。普通に歩けるし、走れもする。ただの普通の人間だ。でも、だからこそ、暗い部屋にいることがこれほど辛いのだろう? さあ、わかたら部屋へ戻ろう。お願いだから。
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