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彼は目を瞑
って、周囲の音に耳を傾けていた。東の窓から差し込む光を避けるようにそれに背を向けて。彼女は彼を見つめていた。瞬きをするのを忘れて、彼が目を開けるタイミングを見計らうために。
二人は互いに求めていた。彼が聴きたいのは彼女の声だった。彼女は朝一番に彼の視界に入りたかった
その部屋には時計がない。あるのはセミダブルベッドとセンターテーブル、ボックスティッシュとゴミ箱。
余計なものを持ち込まず、いつからか二人は夜に沈む。
雀が鳴いている。彼はその鳴き声より美しい声を知っていた。
彼女は彼が目を開けるより先に耳元でおはようと囁く。少し掠れた声とともに彼女の吐息が耳に吹きかけられた。
彼は腕を伸ばし彼女を腕の中におさめる。ゆっくりと目を開け、彼女を見つめる。
彼女はいつものように啄ばむようにキスをする。甘い声を漏らす彼女を制するように唇を塞いだまま、抱き上げて起き上がった。
「今日は君の負けだね」2 / 2
彼は目を開けた。彼女のいない朝、七日目。
涙はいつからか枯れてしまっていたけれど、彼女との毎朝の駆け引きの日課のような日々を思い出すと、未だに男として枯れていない現実を知る。遣る瀬無い朝、彼女の甘い声を思い出しながら、行き先のない欲情を吐き出して、彼はベッドルームを後にする。