てきすとぽい
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第44回 てきすとぽい杯
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一筆啓上仕り候
(
゚.+° ゚+.゚ *+:。.。 。.
)
投稿時刻 : 2018.04.14 23:29
字数 : 1136
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一筆啓上仕り候
゚.+° ゚+.゚ *+:。.。 。.
チ
ッ
チ
ッ
チ、という、声で、我に返
っ
た。
春の風が、河川敷の葦をさらりと揺らした。
私は草むらに座り込んだまま、反射的にその葦の茂みに視線をや
っ
た。
空はよく晴れていて、辺りは眩しくて、とてもつらい。川面も周辺の若葉もまだ茶色い葦もみんな輝いて見える。
チ
ッ
チ
ッ
チ。
もう一度聞こえたその音が、小鳥が喉を鳴らしている音だと思い出した。囀りとは違う、地鳴きという。
ホオジロ科の声だ。でもなんの種だ
っ
たかまで思い出せない。アオジ? カシラダカ? いや、季節的に、標高の低いここには出ないだろう。ホオジロか。
急に頭の中に、何年も前に辞めた趣味の知識が急激に甦る。かつて野鳥に興味を抱いていたことすら、今の今まで忘れていた。
かつて、ボー
ナスで買
っ
た安い双眼鏡とカメラ、amazonで買
っ
た誰かのお古の図鑑を首に下げて、週末は近所の山に登
っ
てばかりいた。
そんなことをする余裕もなくな
っ
てしま
っ
たのはいつからだ
っ
たろう。それすらも思い出せない。
チ
ッ
チ
ッ
チ、という地鳴きの声は何度も聞こえる。ほんの数十メー
トルの藪の中に、いるのは明らかだ
っ
た。私はそれをじ
っ
と見つめる。風が揺らしていると思
っ
ていた葦が、時々それとは別に不自然に揺れるのがわか
っ
た。腰が重くて、体がだるくて、その場から動けない。でも視線を外せない。葦と葦の合間を絶えず何か小さな陰が動いている。地鳴きの声の主であることは明らかだが、は
っ
きりと姿を確認することはできない。
チ
ッ
チ
ッ
チ
チ
ッ
チ
ッ
チ
ちらりと影を見せては葦の影に隠れてしまう。
昔の癖を思い出して、姿を見ようと凝視してしま
っ
たが、もう、疲れてしま
っ
た。
私はゆ
っ
くりと立ち上が
っ
た。
前日の雨で、川は増水している。足を踏み入れれば、すべてが終わる。
そう、思
っ
た時だ
っ
た。
チ
ッ
地鳴きが小さく途切れ、小鳥の影が突然私の真正面を横切
っ
た。
反射的にそれを目で追う。
少し背の高い枯れ木のて
っ
ぺんに、それは止ま
っ
た。
茶色い背中に、白黒のは
っ
きりした模様が特徴の顔。ホオジロのオスだ。そうだ、あの地鳴きはホオジロのものだ
っ
た。
どこからでも目立つ場所に立
っ
たホオジロは、堂々と、囀りだした。
一筆啓上仕り候。
ホオジロの鳴き声はそんな聞きなしを充てられることが多い。私はそんな風に聞こえたことは一度もない。
ただただ、美しくよく通る声が、リズミカルなフレー
ズを、人のいない寂しい河川敷に響かせた。
ああ、春だ、と思う。
厳しい冬を越えた鳥たちが、新しい命を生み出すために、全身全霊で戦い抜く季節だ。
美しいホオジロの歌声は未だ繰り返されている。
私は泥汚れの混じ
っ
た砂利の上に、膝から崩れ落ちた。
最後にこの声を聞いて、死ぬなんて、できるだろうか。
まだ生きる力が私にも残
っ
ているかも知れない。そんな風に思
っ
てしま
っ
た。
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