ある日の手紙
――拝啓 N様
梅雨に入り、紫陽花も咲き始めましたこの頃ですが、いかがお過ごしですか?
最近は毎朝、大瀧さんのロングバケー
ションを聞き始めました。というのも、このところ気分が優れないことが多くなり、何もしないでいると天井から重い空気の層が降りてきて、押し潰されそうな感じになり、身体が思うように動かなくなってきて、けっこう困っていました。
しばらくそのことについていろいろと悩んでいましたが、数日前に何気なくテレビをみていると、懐かしい音楽が聴こえてきました。君は天然色でした。聴き終わって気がついてみると、心が軽くなったのを実感しました。ああ音楽ってこんな効用があるんだなと感心し、物置にしまってあったロングバケーションのCDを出して、毎朝かけてるというわけです。おかげさまで、いまのところ順調に過ごせています。
先ほども書いたとおり梅雨に入ったせいか、このところあまり明るい気分にはなれませんが、大瀧さんの明るい曲を聴いて、少しでも明るく過ごそうと努めています。Nさんは最近音楽など聴いていらっしゃいますでしょうか? もし聴いていらっしゃるのであれば、なにか私に合いそうな明るい曲の入ったものなどお教えいただけるとありがたいです。
そのうち都合がついたらお会いしましょう。
ではまた 草々 平成三十年六月 ……
趣味を通じて知り合った知人からの手紙だった。
明るい女性だったが、年齢のせいか憂鬱なことが多くなってきたようだ。
早速返事と、少しでも元気を出してもらうために同封するCDの準備にとりかかろう。
近くにあったタブレットを手に取ると、ショッピングサイトにアクセスし、「浪花のモーツァルト キダ・タローのほんまにすべて」を注文した。
頭の中に、小山ゆうえんちの歌と桜金造の姿が描かれた。