第45回 てきすとぽい杯
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人生相談
投稿時刻 : 2018.06.16 23:27
字数 : 940
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人生相談
ra-san(ラーさん)


『人生相談始めました』
 そう書かれた看板の横に、猫が丸まっていた。
 私は辺りを見回したが他に誰かいる様子もない。場所は繁華街から少し離れた線路沿いの寂しい道で、今のような夜の時間には、私みたいな一杯ひっかけた酔っ払いぐらいしか歩いていないようなところだった。
 誰かが捨てたゴミか、それとも何かの冗談の看板の横に、たまたま猫が丸まっているんだろうと思った私は、酔っ払いらしい思いつきで、この猫に人生相談を始めたのだった。
「最近、人生に行き詰まりを感じていて……」
 猫は逃げる様子もなく、私の顔を不思議そうに見ながら人生相談を聞いてくれた。私の人生の悩みなど、まあ、三十路の独身男性によくある仕事のマンネリ化や同世代の友人とのキャリア差であるとか、両親の介護が始まったらどうしようであるとか、独身を続けての将来の孤独死の不安であるとか、所得が増えないのに税金はどんどん増えていくとか、世間一般にありふれたごく平均的な悩みであるのだが、酒のからんだ相談はどうしてもクドクドと長くなってしまうものである。
「……というわけなんだよ」
 そのため、そこまで話したところで空が白く明け始め、始発の電車の近づく音が線路を伝わって聞こえてきた。
「ああ、もう朝か。すまないね、長い相談になって」
 そう言ったところで、今までじっと話を聞いていた猫がすくっと立ち上がり、私の顔を見て口を開いた。
「キミの相談はよくわかった。できる限りのことはしてみよう」
 ゴッと後ろを走り抜ける電車の音に混じって聴こえたその声の出どころを確かめる間もなく、猫はパッと走り去って朝の街に消えていった。
 それからである。
 私は仕事で異動を命じられ、異動先で成果を出して出世コースに乗り、所得が倍増。両親の将来の介護費用はもとより、結婚資金も獲得して結婚相談所を経て無事に結婚し、もうすぐ子供も生まれることになった。あの猫に相談した悩みが次々に解決していったのである。
 そして今、テレビで大規模減税を公約に掲げた政党の衆院選での大勝を告げるテロップが流れている。
 これもすべて偶然であるのだろうか? あの猫は本当は神様か何かであったのだろうか?
 だが、それ以上に私はある事実を深い感慨とともに感じていた。
「オレの悩み、所得が増えたらほとんど解決したな……」
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