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第45回 てきすとぽい杯
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like a flower in the asphalt
 投稿時刻 : 2018.06.16 23:35 最終更新 : 2018.06.16 23:37
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- 2018.06.16 23:37:46
- 2018.06.16 23:37:29
- 2018.06.16 23:35:37
like a flower in the asphalt
犬子蓮木


 ずと涙を流している。
 生まれたとき赤子はみんな泣いている。子供はよく泣くものだ。普通は、少しずつ成長して、涙を流す頻度が減ていく。大人になたら特別なときにしかなかないものだ。
 鏡を見つめる。頬を流れる涙は止まることなく流れている。悲しいことがあたわけではない。
 涙が止まらないという病気なのだ。
 子供のときからいつも涙が止まらなかた。どんなに楽しい日も、嬉しいときも、涙は頬を流れていた。周りの人間は気味が悪いと言ていた。そう言われて悲しいと感じても、普段と変わらない涙しか流れなかた。
 それでも生きていれば成長する。
 治らない病気は仕方がない。命にかかわるような病気に比べれば、ただ邪魔で、他人に嫌がられるだけなのだからいいことだとも考えられる。死んでしまいたいと思たこともあたけれど、それは若いときに誰もが思うことだたのかもしれないなとも思う。
 
 大人になて、仕事をしている。
 涙は相変わらず流れている。
 就職活動は大変だたけれど、なんとか理解のある会社に勤めることができた。希望したので社外の人間と合うことはなく、毎日、PCに向かていた。同僚の方々は、最初、驚いてはいたけれど、今では慣れたのか、それとも諦めたのか、触れられることなく働いていた。
「これやてみ」
 仕事中、ちとした雑談の時間だた。恋人がほしいとか、付き合いたいとかみんながそんな話になたときに先輩があるアプリを勧めてきた。プロフルを登録して、恋人候補を探すようないわゆるマチングアプリだた。
「知らない人と会うの怖くないですか?」同僚が言た。
「今だと普通だて」
 この先輩の今の恋人はこのアプリで出会たらしい。
 そういたのもいいかと思たけれど、このときは、涙を流したまま笑顔を作てただ聞いていた。
 
 帰宅して、ごはんを食べながらテレビを見ている。昼間、先輩が勧めていたアプリのCMがやていた。デスプレイの中では暗く落ち込んでいた人間が、アプリを使て素敵な恋人を見つけ、15秒で明るい笑顔になていた。
 うそくさいなあ、と思う。
 それでもなんとなく、気になてしまう。食事を終えて、食器を片付けて、携帯電話を手にとた。特に誰からのメセージも届いていない。静かな夜。検索欄にアプリの名前を入力した。
 おそるおそるプロフルを登録していく。
 顔写真を求められた。
 携帯電話の中の写真を見たけれど、当然、涙を流している写真しかない。そもそもほとんど写真がなかた。仕方がない。別のアプリを立ち上げて涙が目立たないように修正した。すべての登録を終えると画面が切り替わた。
『meetsはじめました!』
 アプリの画面に自動メセージが表示される。
 わずかに興奮しているのが感じられた。

 人と会うことになた。
 アプリで話して、盛り上がた人だ。すごく緊張しているのがわかる。待ち合わせ場所に、かなりはやくついてしまた。立て待ていると道行く人にちらちらと見られる。だいの大人が涙を流し続けたまま、ずと立ているのだ。なにがあたのかと思うのも無理はない。普通ならそんな泣くようなことがあたら、どこか影へ、人に見られないようなところへひこむものだ。けれど、これが普通なのだから仕方ない。
 携帯電話にメセージがはいた。
 相手も着いたらしい。
 もう近くにいるのだ。
 足が震えている。
 ここにいる悪目立ちしている人間が待ち合わせの相手だと伝えなければいけない。逃げ出したいとも思た。どうせだめになるならと。
 それでもメセージを返した。するとすぐにある人と顔があた。あの人か、と思う。やさしそうな人だた。
「おまたせしました」小走りで近づいてきてそんな言葉を話した。
「いえ、まだ時間になてないです」緊張してはやく来すぎたのが悪いのだ。
 相手の表情を伺う。相手もこちらを伺うような顔をしているのがわかた。それはそうだ。はじめてあた恋人候補が、いきなり涙を流しているのだから。まず、それに触れていいのかどうかで悩んでいるのだろう。
「すみません……、まず言わなければならないことがあります」
 何度も事前に考えていた言葉を発する。
「気づいたとは思いますが、こういう病気です」頬を指さした。「どんなときでも涙が止まりません。今も悲しいとかなにかがあたとかではないです」
「そ、そうですか……
 やはり困惑している。それはそうだろう。
「黙ていてすみませんでした。もし、嫌でしたら、かえります」
 相手は考え込むような姿を見せる。目が合た。
「正直、驚いています。嫌かと言われると答えにくいです。できればもとはやく話してほしかたとも思いますけど、そうしたらここに来なかたかもしれません」
 相手がゆくりと言葉を紡ぐ。
「でも、綺麗だと思います。あなたの涙が、綺麗なものだと思いました」
 その言葉が嬉しいものだと感じられた。
 やさしい人だとも思う。
 それでもそれだけで終わることはできない。
「みなさん、そう言います。最初は」
 もう四人目だ。そうして、喜んで付き合ても何度かデートするうちに、周りからの奇異の目に耐えられず別れ話を切り出される。
「これからも、会うたびに、同じように思てもらえそうでしうか?」
 あなたのとなりに立つ人間の涙は、いつまでも綺麗なものだと。
 この涙と一緒にいてもいいものだと。
 ずと涙を流している。                             <了>
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