第46回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
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ひよこ豆が売っていたから
投稿時刻 : 2018.08.19 08:02
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ひよこ豆が売っていたから
コユキ キミ


「ひよこ豆が売ていたから」
 エアコンの冷気にのて、彼女の言葉は、僕の耳にすべりこんできた。
 それは、平成最後の夏。
 スパイスと湿度たぷりの暑さの中で、彼女は妖精のように涼やかだた。肩までの髪の毛は、さらさらで、声の調子は、クラアイスのように明快。でも、僕はひき肉のようにぐずぐずとしている。
 ひよこ豆のカレー。玉ねぎをいためて、ひき肉とスパイス、ナス、オクラ、そしてひよこ豆。さらにカレールウをあわせて、水分少なめにドライカレーのように仕上げる。
 豆は嫌いだ。
 そういえば、僕たちの関係は、変わていただろうか。
 僕は、その言葉を使わないまま、豆も野菜も肉と一緒に、煮こまれ、とがたところがなくなた。
 とがた大人なんて、むしろイタイ。
 カレーをいれて煮こめば、野菜も肉も豆も、すべてカレー味。そのなかで、いつまで、豆が嫌いだなんて、青いことを言ていられる?
「カレーたら、次の日も美味しいし」
 その万能すぎる意見に、僕は戦いを挑む。
「駅前にできたラーメン屋、結構おいしいらしいよ」
 彼女の表情は、一切変わらなかた。そのまま、戸棚をあけた。
「カレールウがない。買いに行かなき
 僕は、自分の主張を2度繰り返すなんて、愚かな真似はしない。もちろん僕の言葉が聞こえていないわけじない。彼女は、ダークなシツで主張する。
「ラーメン? パスかなあ。実はあんまり好きじないの」
 僕の好みと君の好みが同じだと、僕は赤ん坊のように信じきていた。いつから、君はあいまいな表情を浮かべていた? 君はいつから、僕にあわせていた?

「買い物、行くでし?」
 スニーカーからのぞく白い足首が、僕を導くように数歩先をゆく。たやすく人込みをぬけていく。こんなに蒸し暑いのに、その足取りがあまりにも無慈悲で、僕は引き留めたくなる。
 腕をつかむ。
「キミが好きなんだ」
 びくりしたような彼女の表情。見張たその瞳に映る僕は、あまりに小さな存在で。
 彼女の口がわずかに開いた。言葉が、ビーズのように滑り落ちていく。

 彼女の返事は!?
 試される僕らの選択。
 ひよこ豆のカレー? それともラーメン?

 夏野菜サンバを踊り続ける八百屋のにーん。暴言上等!ラーメン屋の店主。スーパーマート、禁断のイケメンレジ打ちタイム!
 僕と彼女が駆け抜けるひまわり商店街。
 カギは、もちろん、あ・じ・た・ま。

「ひよこ豆が売ていたから」
 うだるようなこの夏に、近日公開!
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