てきすとぽい
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第48回 てきすとぽい杯〈紅白小説合戦・紅〉
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ショートコント
(
塩中 吉里
)
投稿時刻 : 2018.12.15 23:49
字数 : 2188
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ショートコント
塩中 吉里
季節は十二月も半ば。忘年会の季節だ。
っ
というわけで入社一年目の結城トシオと南リカは、定時早々に居酒屋にこも
っ
て、忘年会向けの余興を考えているのだ
っ
た。
「でも私、中途採用だから新入社員
っ
てわけじ
ゃ
ないんだけど?」
南が慣れた調子で「とりまビー
ル二つ」と店員に告げる。言葉の通り、南は第二新卒ですらない転職組の、アラサー
独身女である。
「南さんがや
っ
てくれないと僕一人でやる羽目にな
っ
てしまいます」
言うわりに表情は全く困
っ
ていない、ロボ
ッ
トのような能面で結城がこたえた。
「結城くん一人でや
っ
てもぜんぜんいいジ
ャ
ン。世の中にはアー
ルジ
ュ
ウハチグランプリ
っ
ていうのがあ
っ
てね
……
げへへ」
「もしかしてそれピン芸人が出るRー1グランプリのこと言
っ
てます?
っ
ていうか南さん、もしかしてもう酔
っ
てます?」
「一滴も飲んでない
っ
つー
の。そんなことよりさ」南の眼が不穏な気配を含んであやしく光る。「私の考えた最強の爆笑ネタがあるんだけど、二人でそれ演
っ
てみない?」
「すみません、南さんのことがよく分からないのですが
……
余興の参加、しぶ
っ
てます? それともノリノリなんですか?」
「そり
ゃ
もうノリノリの則子さんよ」
則子とは南の父方の叔母の名である。
ち
ょ
うど届いたビー
ルをグイと景気よく流し込み、「くわあー
っ
」と溜めたあと、南は結城の冷めた眼をのぞき込んだ。
「結城くんてさー
、真面目じ
ゃ
ん」
「よく言われます」
「そこが目のつけどころなんだよね」
「と言いますと」
「そういう普段お堅い人に、ええ
~
っ
、て感じのことをさせれば、まあ大爆笑待
っ
た無し
っ
てこと」
「なるほど」
「てなわけで、チンコ出しな、結城くん」
枝豆をぱくつきながら、南はセクシ
ャ
ルハラスメントをかました。結城がなにかを言うより早く、「つ
っ
ても、ただ出すんじ
ゃ
だめだから」と南は続けた。
「何の考えも無しにボロン
っ
てや
っ
ち
ゃ
うとさ、警察沙汰になるからね。出すふりをするわけよ
……
ほら、それこそ芸人がや
っ
てるあのスタイルを踏襲するの。『シ
ョ
ー
トコント・チンコを出す男』
っ
て前置きしたあとにチ
ョ
いとジ
ッ
パー
を下げるジ
ェ
スチ
ャ
ー
をすり
ゃ
あこ
っ
ちのもんよ。なんなら擬音で『ぴろー
ん』とか『ぽろー
ん』
っ
て言うのもアリだね
……
自信があるなら『ボロン
ッ
』でもいいんじ
ゃ
ない?
……
ふ
っ
ふ
っ
」
爆笑の渦が見える! と言い切
っ
て残りのビー
ルを飲み干すと、南は豪快に口元をぬぐ
っ
た。「どうよ?」
「品が無いと思います」
普通の女性ならば涙がこぼれてしまいそうなほど冷徹な眼と態度で結城が告げる。だがアルコー
ルでぼやけた南の情緒にはそれらはなんの作用も及ぼさなか
っ
た。
「そー
こが狙いなんだ
っ
て。結城くんの真面目なキ
ャ
ラを生かすんだ
っ
て」
「はあ
……
」
「え? なに? もしかして気が乗らない? こんなんじ
ゃ
爆笑させられない
っ
て?」
通りがかりの店員にすみませー
んビー
ル一つ追加お願いしまー
す、と事づけて、南は額を指でもんだ。この若者はチンコぽろー
んじ
ゃ
爆笑できないかもしれないと危惧しているのだ
……
見どころがあるじ
ゃ
ないか!
「結城くんは真面目なんだなあ。そこまでガチのマジで笑いを追求する
っ
ていうなら、私もと
っ
ておきの必殺ネタを提供してあげないとね」
「南さんは人の話を聞かない
っ
て言われませんか?」
結城はビー
ル代わりにお冷やを南に差し出したが、そのままつい
っ
と押し返された。
「本気でやるなら、タイトルを変えるのよ。『シ
ョ
ー
トコント・チンコを出す男』じ
ゃ
なくて、『シ
ョ
ー
トコント・近所の銭湯に月水金だけ現れるチンコプター
おじさんのモノマネ』
っ
て感じに。タイトルが出オチ気味なところは結城くんのブルンブルン演技でカバー
すればオー
ケー
だから!」
どや! と酒臭い鼻息をフンフンさせながら南は結城を見た。結城は相変わらずの冷静な顔をしている。
「さ
っ
き南さんは二人で演る
っ
て言
っ
ていましたけど」
「ああ? うん、言
っ
た言
っ
た」
「僕がチンコでヘリコプター
を演るとして、南さんはその間なにを披露するんですか?」
「私は結城くんの横で手を顔に当てて『き
ゃ
ー
、いやー
ん』てやるんだよ。女子力がえげつないレベルで上がるからね、マジで。上手くいけばクリスマスまでに彼氏ができるかも分からんわ」
「南さん
……
」
「なに?」
「裁判すれば、たぶん南さん負けますよ」
「ええ
っ
?」
というわけで裁判に負けずに爆笑を取れるラインを二人で探りに探
っ
た結果、忘年会本番では『シ
ョ
ー
トコント・わき毛と言わせたい女』が採用にな
っ
たのだ
っ
た。
――
「シ
ョ
ー
トコント・わき毛と言わせたい女」。
――
ねえねえ結城くん。
――
なんですか。
――
脇に生えている毛のこと、なんていうか知
っ
てる?
――
え? 脇に生えている毛、じ
ゃ
ないんですか?
――
違う
っ
て。脇に生えている毛だよ?
――
だから脇に生えている毛、じ
ゃ
ないんですか?
――
じ
ゃ
ない
っ
て。脇に生えている毛を表す言葉があるでし
ょ
?
――
だから脇に生えている毛、じ
ゃ
ないんですか?
――
もう、ヒント出しち
ゃ
う! 「わ」から始ま
っ
て「げ」で終わる
……
――
だから脇に生えている毛、じ
ゃ
ないんですか?
――
それじ
ゃ
最後の文字が「げ」にならないじ
ゃ
ん! もう一個ヒント、三文字!
――
輪投げ?
――
大喜利じ
ゃ
ねー
んだぞ! お
っ
とマジギレしてしま
っ
た
……
じ
ゃ
なくて。とぼけないでよ、脇に生えている毛のこと、なんていうのか
……
南はクリスマスを一人で過ごしたという。
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