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勝手に連動 第5回ぽい杯スピンオフ賞
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PANDORA BOXS
(
茶屋
)
投稿時刻 : 2013.05.24 22:09
最終更新 : 2013.05.26 16:00
字数 : 4359
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更新履歴
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2013/05/26 16:00:02
-
2013/05/24 22:09:54
PANDORA BOXS
茶屋
僕は、い
っ
たい。
どこにいるのだろう?
ここは。
い
っ
たい。
見渡す限りの平地。灰色の雲が太陽を覆い、微粒子を含んだ空気が視界を不明瞭にしている。
少年は彷徨
っ
ていた。
あてどもなく。
記憶もなく。
ただ、探すべきものもわからぬまま、探していた。
お母さん。
そう、心のなかでつぶやいてみたものの、その言葉が何を意味するのかよくわからなか
っ
た。
お父さん。
ただ、何だかその言葉を思い起こすたびに、少年の心には僅かな痛みが去来した。
少年はふと立ち止まる。
立ち止まると、もう動けないような気がした。
孤独と悲嘆と恐怖が少年の中で広が
っ
てい
っ
た。
助けて。
心のなかで悲鳴をあげた時、少年の耳に音が聞こえた。
音。
声。
「
……
将」
少女の声のようだ
っ
た。
少年は慌てて周囲を見渡す。だが、そこには何もない。人の影も形も無い。
「御大
……
」
まただ。
また聞こえる。
すぐ近く。
「おぬしが、御大将で御座るか」
今度はは
っ
きりと。
少年は今度はは
っ
きりとその声を捉える。
そして、その声の発信源を捉える。
箱が、埋ま
っ
ていた。
Boy
meets
Box.
物語は始まる。
― PANDORA
BOXS ―
「な
ぁ
、俺達が出会
っ
た日のこと覚えてるか?」
キサラギは荷物にもたれかかりながら、手にした薪を弄びながら言
っ
た。
「御大
……
」
「ん?」
「死亡フラグ
っ
て奴か」
「縁起悪
ぃ
こと言うなよ」
キサラギは鬼切を笑いながら一瞥したあとに、夜空を見上げた。
関東の空も随分綺麗にな
っ
たものだと思う。
あの頃は、関東消失後に舞い上が
っ
た特定粒子の影響で、夜空に星なんて見えなか
っ
たはずだ。
だが、キサラギは思うのだ。
あの頃、夜空を見上げたことなどあ
っ
ただろうかと。
関東大消失。
一夜にして東京を中心とした関東が消失した現象のことである。
原因は不明。事件から十五年経
っ
た現在にいた
っ
ても明らかにな
っ
ていない。
その一因として戦争が始ま
っ
たことがあげられる。
はじめは中枢を失
っ
た日本に対する、他国からの侵略だ
っ
た。
防衛と撤退、侵攻と侵略。
分裂と分断、停戦と開戦。
様々な紆余曲折があ
っ
て現在は東北自治領を中心とする蝦夷・奥羽越列県同盟と西日本民主主義共同体が関東を前線として断続的な戦闘を繰り広げている。
その戦闘の中心とな
っ
ているのが、『契約の箱』を有する者たちだ。
関東消失ですべての建物、生物、記憶が消え去
っ
た中で、唯一生き残
っ
た者達。
「契約者」
彼らはそう呼ばれている。
ミナコは叱責を受けていた。功を焦りすぎ、隊に報告せずに単独でキサラギを追跡したのだ。
そしてキサラギに対する奇襲攻撃は失敗した。
やはり、報告すべきだ
っ
たのだ。
いまさら悔いても仕方がないことだが、どうしてもその感情を抑えることは出来ない。
部屋に帰るとその気持がい
っ
そう強くなり、どうしようもなくな
っ
た。
「グラー
シー
ザ、頼む」
「Jawohl,
Herr
Leutnant」
グラー
シー
ザはそう声を発すると、箱を展開し、熊のぬいぐるみへと形を姿を変える。
ミナコはそ
っ
とグラー
シー
ザを抱き寄せると、部屋の隅に座
っ
た。
そして目をつむる。
子供の頃からの癖だ。嫌なことがあるといつもこうや
っ
て部屋の隅でぬいぐるみにな
っ
たグラー
シー
ザを抱いて寝る。
そうすると嫌な気持ちも薄らいでいく。
記憶を失う前の平穏に、帰れるような気がするのだ。
<中略>
列県同盟の契約者・スメラギは望遠鏡を覗き込みながら吸
っ
ていた煙草を投げ捨てた。
関東のシ
ェ
ルター
から見つけ出したものだ。酒も煙草も十分な量確保した。
「さて、いいかげんお仕事す
っ
かな」
望遠鏡越しに見える共同体の前線基地の建物の屋上には歩哨が数名いる。
「烏号」
「あいよ」
「ステルス装甲と消音装置付きの小銃装備で行くぞ」
「あー
はいはい。狙撃じ
ゃ
なくていいんかい?わざわざ近づかなくてもいいんじ
ゃ
ないかい?」
「この距離の狙撃じ
ゃ
次発までの間に死体に気づかれちまう。近距離で迅速に処理したほうが確実だよ」
「なるほどね
ぇ
。や
っ
ぱり頭いいな兄
ぃ
は」
「だろ?」
スメラギはニヤつきながら烏号に展開の指示を出す。すると烏号は箱から不可視の鎧へと姿を変える。
鎧はスメラギの体を包み込み、その姿を覆い隠した。
「兄
ぃ
……
」
「何だ?」
「いいにくいんだけどさ」
「なんだよ」
「カツラギが接近中だよ」
「マジかよ
……
」
スメラギは面倒くさくてしかたがないというような表情をしたが、透明なのでそれは見えなか
っ
た。
「突
っ
込むぞ!!アパラー
ジタ!!」
「合点!!」
土埃、いや土煙を上げて突き進む巨大な影が共同体の前線基地の前線基地に接近を開始し始めていた。
「「うお
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ら
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
!!!!!!」」
兵士たちの銃撃も物ともせずに巨大な影は前線基地の壁をぶち破る。
影は、戦車だ。
敵の銃弾を物ともせず、基地内に入
っ
た戦車は砲撃を次々と打ち込んで破壊の限りを尽くしていく。
戦車は契約者カツラギが乗り込んでいる「契約の箱」アパラー
ジタである。
「行くぜ相棒!」
「おうさ!!」
「やれやれ、派手にや
っ
てくれるね
ぇ
カツラギくんも」
「ま
っ
たくだね」
「帰るか
……
」
「駄目だよ兄
ぃ
、仕事仕事」
「は
ぁ
~
、
っ
たくし
ゃ
ね
ぇ
な
ぁ
」
<中略>
「展開」
ミヤコとミヨコはそれぞれアイギス、雷公鞭を装甲形態にして身を包んだ。
二人の眼の前に経つのは長身の男である。白髪、赤眼の男。
男はその独特の雰囲気と箱たちの感知した反応から契約者と思われたが、共同体にも列県同盟にもそのデー
タはない。
それどころか、箱らしきものも持
っ
ていない。
「既に展開して、伏せているかもしれない。警戒しろ」
「わか
っ
てる」
ミヤコとミヨコはジリジリと男との距離を詰めている。男はつまらなそうな表情をしているが、二人は装甲を通してその異様は気配を感じていた。
震えを抑えるのが精一杯なほどだ。
どれくらいの時間が過ぎたのか。
二人は一定の間合いから一歩も動けなくな
っ
た。
一歩も動いていないはずなのに、体力が奪われ、精神が蝕まれていくような気がした。
落ち着こうにも、一瞬足りとも気が抜けない。
動いたのは、ミヤコだ
っ
た。
何か気迫のこも
っ
た声を上げて、一歩前に踏み出そうとしたのは、ミヨコにも確認できた。
だが、次の瞬間、ミヤコの姿が消えた。
遠く、後方に吹き飛ばされたのだ。
男の腕がいつの間にか大きな装甲に包まれている。
いつの間に展開を?
だが、考える暇などなか
っ
た。
ミヨコは瞬時に攻撃に移る。
瞬間的加速。
風だけを残して、その姿は消え去
っ
た。
男も不可解な表情で周囲を見渡す。だが、どこにもミヨコの姿はない。
「请吃!」
雷公鞭の声と同時に、強烈な蹴りが男の顔面に繰り出される。凄まじいスピー
ドで繰り出された蹴撃は衝撃波を伴うほどだ
っ
たが、男は平然とした様子だ。
「マジ?」
「真的吗?」
男はミヨコの足を掴むと、力任せに振り回し、何度か地面にたたきつけた後に、その体を放り投げた。
「ミヨコ!」
放物線を描きながら空中に投げ出されながらも、Bio
Steel製のワイヤー
ネ
ッ
トを射出し、男に絡みつかせた。
「Nice!行くよアイギス!」
「あいあいさー
!」
ミヨコが男と戦闘している間にミヤコは装甲形態解き、アイギスの姿を巨大なライフルへと変換していた。
生成された弾丸が内部に発生したロー
レンツ力で速度10km/
sで発射される。
爆音と強烈な光が、一瞬の間に巻き起こ
っ
た。
「やり
ぃ
!」
「や
っ
たねミヤ
っ
ち!」
いつの間にか人型の形態に変化していたアイギスがミヨコとハイタ
ッ
チする。
「お前ら!反応消えてないぞ!」
立ち上が
っ
たミヨコが見据える先には、立
っ
たままの男の影があ
っ
た。
だが、どこか、先ほどとは違う。
男の顔は半分ほどこそげ落ち、代わりに金属光沢の見える別の何かが顔を見せていた。
「あれは
……
」
「まさか
……
契約の箱を
……
」
「体内に取り込んでいるのか?」
<中略>
砂埃で埋もれかけた部屋で老人はキサラギに語りかける。
「消失は
……
」
一つの単語を発するたびに唾を飲み込んだり、お茶を飲んだりするのでもどかしい。
「
……
情報過多による、エントロピー
の、相転移現象が、引き起こしたものだ
……
」
「何じ
ゃ
そり
ゃ
」
「
……
確率は、低か
っ
た、だが、ゼロじ
ゃ
なか
っ
た
……
」
「聞いてね-のかよ」
「
……
わしは、警告、した、確かに、だが、奴らは、耳を、かさなんだ
……
」
「
……
」
「
……
わしは、精一杯、救
っ
た、救
っ
た、お前らを
……
」
<中略>
戦況は絶望的だ
っ
た。
暴走したパンドー
ラ、アパラー
ジタは人格を失い、契約者であるカツラギを体内に取り込んだ。
今やその姿は神話に出てくる怪物のような姿である。
「karmaNA
bAdhyate
buddhir
na
buddhyA
karma
bAdhyate」
意味の分からない言葉を発しながら、周囲の人工物を次々とノイズへと変換していく。
通常の兵器はまるで役に立たない。
一時的な共同戦線を張
っ
ている列県同盟と共同体の契約者たちも有効な損害を与えられずに、戦闘不能状態に陥
っ
ている。
あまりにも圧倒的な力だ
っ
た。
キサラギと鬼切の覚醒展開の力もアパラー
ジタにいくつかの傷をつけることが出来たものの、致命傷までには至
っ
ていない。
そしてついに、キサラギは力を使い果たし、地面に伏した。
「くそ
っ
」
戦えるものはわずかだ。その中で一番戦闘能力が高いものはミナコとグラー
シー
ザのコンビだ。
だが、だからこそ絶望的なのだ。
戦えるとい
っ
ても右足に大きな傷を負
っ
ていて、動きも制限されており、グラー
シー
ザの槍がアパラー
ジタの装甲にほとんどダメー
ジを与えないのも立証済みだ。
もはや。
特攻しか無いのか。
グラー
シー
ザのもつ力を全て相手にぶつければ、あるいは。
だが、それは死を意味した。
死。
ミナコは今まで感じたこともなか
っ
た闇が直ぐ側にや
っ
てきていることに驚いた。こんなにも空恐ろしく、貪欲な闇だ
っ
たのかと。
怖くないといえば、嘘になる。
やるしか無い。
それしか方法はないのだ。
一人なら、怖いかもしれない。
けれども、グラー
シー
ザと一緒なら。
ミナコは決意を固め、足を一歩踏み出す。
だが、そのまま前に崩れ落ちてしま
っ
た。
何が起きたか理解できなか
っ
た。
全身の力がす
っ
と抜けたかのような感覚。