5分
東京駅の入場券が140円で、籠原駅の入場券も140円
っていうのは、おかしくないかい。
疑問を抱きつつも、君はいつもホームまでお見送りにきてくれる。ここに着くのは、20時。電車が来るのは20時5分。5分のためだけに140円。2週間に一回の出費だとしても、月に換算すると280円。かける12で3360円。それだけの価値があるかしら、と不安になる。
ねえねえ、こんなのあるよ。東京から籠原間のおでかけ券。今度こっちに来る時はこれ使ったらいいんじゃない。
そうだね、使おうかな。K君が東京に来る時もこれ使ったら、少し安く済むね。
手を繋いだまま、一列になって改札を通る。通路に貼られている鉄道会社の広告が、張り替えられていた。
「異国情緒溢れる旅! ゴールデンウィークは長崎県へ! 」
君と新幹線に乗って、旅行したことはまだないなあ。運転するの好きだから、とか、これぐらいの距離は全然平気だから、とか言って、君がいつも車でどこへでも連れて行ってくれるから。ふと、ずっと握っていた君の手が惜しくなる。こんなに柔らかかったっけ、とさびしくなる。
一段、一段、階段を丁寧に降りていくと、青い夜とひんやりとしたホームが、少しずつ見えてくる。この階段が永遠に続いてくれないかなあ、と思ったりする。点字ブロックのでこぼこが靴底に当たった。
電光掲示板には「20時上野行き」の文字。君といられる時間はあと5分。
K君、この前調べたんだけどね、上野行きの最終は0時5分なの。だから、あと4時間は一緒にいられるね。
だめだよ、明日仕事でしょ。0時5分に帰ったら、家着くの3時とかになっちゃうでしょ。無理すると、身体壊しちゃうから。
忘れ物は大丈夫、と聞く君の声がさびしい。
4時間あれば、140円ぐらいの価値はあるかな、なんてことを思った。