第7回 文藝マガジン文戯杯「COLORS」
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イエローダイヤでカクテルを
投稿時刻 : 2019.05.03 08:44
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イエローダイヤでカクテルを
バルバルサン


「驚いたか? 」

 そういう彼の表情は、いつも通りの裏表のない、キラキラという擬音がとても似合う笑顔を浮かべていた。その表情を見て、私はいつも彼を許してしまうのだが、今回は少し違う。その屈託のない笑顔を浮かべる彼の鼻を摘まんでやた。



 私の名前は柊由利。いわゆるキリアウーマンをやている。そんな私の彼氏はホストだ。夜の街で働き、女性に夢を見えるのがお仕事。これを知たのは三年前の春のこと。
 私はとある地方の出身で、そこの県立大学を卒業した後、都会での仕事を夢見て上京したのだ。
四月のことだた。私の誕生日に上京し、電車を降りた。夢の都会だたが、やはり田舎者の私にとては色々なものがありすぎて、周りを見渡してばかりいた。そんな私に声をかけてきたのが、今の彼氏であるこいつだた。

「お嬢さん。キロキロしちて、どうかしましたか? 」

 そう声をかけてきた甘いマスクの青年。一瞬見惚れてしまたが、すぐに記憶のどこか引かかる笑みだなと思た。この笑みを、どこかで見たような。というより、しう見ていたような。そんな気がしたのだ。

「そんなキロキロしていると、首が一蹴してしまうぜ。由利ちん」

 そう私の名前を当てて見せた彼。ものすごく驚いたが、よく顔を見て見れば、彼の正体が分かた。

「あなた、もしかして。竜也? 」
「お、やと思い出したか。イケメンになただろ。おどろいたか」

 そう、彼の名前は山木竜也。小学校から高校にかけての同級生だ。私の故郷で親と喧嘩し、町を出ていた後の行方が分からなかたのだが、彼も都会に出ていたようだ。ポカンとする私に屈託のない笑みを投げかける彼。この再会が、私と彼の始まりだた。



 私と竜也は同郷ということもあり、連絡先を交換し、何度か会たり合わなかたりを繰り返した。その中で彼がホストをやていることを知た。
 ホストと聞くと、女性を甘い言葉で誘惑し、金をむしり取れるだけむしり取る最低の人種だと思ていたし、その考えは今でも変わらない。だが、竜也は少し違た。女性に本当に夢を見せるのが上手いし、アフターケアも上手なのだ。私も会社の人との付き合いで彼の店に偶然行たことがあるのだが、彼は私の同僚や、私に理想の男性と一緒にいる。一緒に話しているという錯覚を覚えさせるような話し方、仕草で私たちに夢を見せてみせた。そして、店を出てやと夢から覚めるような、そんな催眠術のような接待だた。
 だが普段の彼はまるで少年だ。良い意味で少年なのだ。何というか放ておけないし、私をびくりさせるためにいろんなことをしてくれた。一度、ホストとか抜きで旅行に一緒に行かせてもらたが、瑞々しい感性と、色んなものに目を輝かせる様は本当に、子供の様で、だけど私に対する気遣いなどはちんと大人で。そんな普段の彼と、ホストとしての彼、両方の面を知てから、段々と惹かれるような気分になた。ホストに惚れても、良いことは無いとは思う。でも、彼は何か、違うような。そんな事を思たのだ。
 だが、彼女ができて一番困るのは彼だろう。何せホストなのだ。女性に与える印象第一の商売で、彼女など足かせ以外の何物でもないだろう。だから、この思いは胸の奥にしまて。別の男性と一緒になるんだろうな。なんて思ていたら。

「あの、さ。由利。俺と、付き合わない? 」

 そう彼が言てきたのにはものすごく驚いた。ホストが店の外で女を口説いていいのかと問い詰めたくなた。確かに嬉しかたけど、驚きの方が勝て、疑いの目を向けてしまた。

「あ、俺がホストだから、遊びだろて思てるでし、ホストでも、女性を本気に好きになることくらいあるさ。驚いたかい? 」

 そう言て、真摯な目を向ける様子は、少年の様でも、ホストのような夢を見させる男の物でもなく。真摯な大人の男性のものだた。
 彼はずるい、本当にずるい。そんな目を向けられて告白されたら。

「うん。いいよ」

 なんて答える以外に、無いじないか。



 付き合い始めてから何が変わたのかと聞かれれば、特に何も変わらないとしか答えられない。もしかしたら、竜也に告白されるより前に、私と彼は付き合い始めていたのかもしれない。
 ただ、ケジメをつけたかたと彼は言た。ちんと、告白したうえで付き合いたいと。そんな彼は最近忙しいらしい。SNSにも反応が悪いし、中々会えない。会えれば、その日は滅茶苦茶にかわいがてくれるのだが。
 やはり、付き合い始めたのだからちとくらい、彼女らしいことをしようと。彼のアパートに行た。そして、合鍵を使て入た。彼の部屋は、整理整頓が行き届いていて、小ざぱりとしている。その部屋で、私は卵焼きを作てあげた。彼好みのしぱい卵焼きを。
 そうだ、彼が来るのを待て、いつも驚かされているから、私から驚いたかと言てやろうかと思い、彼の部屋で彼を待つ。きと彼が死ぬほど驚いて喜ぶであろう、サプライズをしてやろうと、彼の机に卵焼きを置き。
 だが、待てども待てども彼は帰て来なかた。ちとしんぼりしつつ、私は彼の部屋を後にした。
やはり、ホストだから他の女性の接待をして遅くなたのだろうか。そう思うと、何だか悲しくもあり、これが彼の仕事なのだとあきらめもある。それを踏まえたうえで付き合ているのだ。
 それから五時間ほどたた後、彼からSNSが飛んできた。すさまじい文の量の謝罪文と、卵焼き、しぱすぎだという文句も。私は苦笑しつつも、ホとしていた。そして、その文の末尾に、今夜会いたいと書かれていた。彼からのお誘いは珍しい。



 彼が指定した待ち合わせの場所はとあるバーた。そこに入店すれば、彼が座ていて。その横に、私も座る。
 彼は真剣な表情で、私に一杯のお酒の入ているグラスを、無言で差し出してきた。なんだろうこれは。と思いつつグラスを観察した。中には、黄色いレモンジスの氷のようなものが入ている、変わたお酒だ。
 私はグラスを手に持ち、すと傾ける。お酒はお医者さんがあまり飲むなと言ていたらが、一杯くらいならいいだろう。とても美味しかた。何というか、とても高級な味かしたのだ。
 そして、氷だと思ていた粒は、確かにひんやりとするが、何か違う。

「このカクテルはな、ダイアモンズ・ア・フエバーて言う、ダイヤモンドを沈めたお酒なんだ」

 それを聞いて、目を丸くした。ダイヤを沈めるお酒なんて、何とも高級すぎて、私なんかが飲んでいいのかと。

「で、中の宝石だけどな、イエローダイヤて言て、四月の誕生石だ。由利の誕生日て四月だろ」

 私は、ぽかんと口を開けてしまいつつも、頷く。

「でな、宝石に込められた言葉は、永遠の良縁とか、そんな感じだたと思う。最近忙しかたのは、この宝石を手に入れて、このカクテルを作るために仕事頑張ていたんだ」

 そして、彼は笑た。優しく、少年のような。でも、真摯な笑顔。裏表のない、キラキラという擬音が似合う笑顔。

「俺、お前と結婚したい。きちんと、故郷に帰て、お前の親や俺の親にも挨拶する。しかり地に足付いた仕事に変える。だから、結婚してください」
そして、驚きで疲れかけている私に向かて、いつもの決めセリフを言て見せた。

「驚いたか? 」

 その笑顔を見て、私はその鼻をつまんでやたのだ。

「痛、何すんだよ。こちは真剣に告白しようと」

 その言葉を、彼の唇に指をつけることで黙らせる。

「竜也。まず、謝らないといけないんだけど。明日から、夜に一緒に寝ても、その、そういうことはしないようにします」

 その言葉に、シクを受けるような表情をする彼。こういうときは判りやすいなと思う。

「だて、びくりさせちうでし? お腹の中の赤ちんを」

 そう言て、私はお腹を撫でながら、ポカンとする彼に言てやた。

「驚いたか」
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