電車の窓から見えたのは
かたん、かたんと足元から音が鳴る、俺は窓に頬杖を突きながら窓の外を見る。外は、雄大な白で埋め尽くされていた。
しん、しん。しん、しん。雪が降るのに、こんな擬音を最初に使
った人間は誰なのだろうか。ただ雪が降るだけの、音が無い世界に音をつけたその人は、きっと感性が誰よりも強い人なのだろう。
窓の外、暖房が効いた電車内とは違う、極寒の世界に、しんしんと雪が降り、既に積もっている。窓の外は、春や夏はどんな風景が広がっているのだろうか。この場所の出身ではない俺には、想像することしかできないが、規則正しく黒い溝が敷かれているから、畑か、田んぼかであろう。
手前、立っている人が見えた。いや、本当に人なのだろうか。冬にただ立っているだけの案山子なのかもしれない。どちらにせよ、ご苦労なことだ。冬の田んぼ、都会住まいだった俺には、どんな仕事があるのかなんて知らないし、案山子なら、鳥などほとんどいない冬までたっている何て、なんとも、大変な仕事だ。
遠く。灰色の地平線と、手前の白い区画の間には、死んだように立つ木々が立っている。葉が無いだけで、死んだように見られるのだ。本当は、春に向けて、眠っているだけなのに。そう思うと、葉の無い木も、少し可哀そうではある。
ふと、右に見えてきたのは、何かの建物だろうかと思ったら、よくよく見れば、丘と、トタンの壁だ。屋根に一瞬見えたのは、小高い丘で、灰と白の視界でよく見えなかった窓のような部分は、ただのトタンの壁。人間の思い込みというのはすごい。ただの丘とトタン壁も、よく見なければ建物に見えてしまう。
その小高い丘と友に見えてきたのは、針葉樹の木々。冬場でも葉が落ちない、春ごろの嫌われ者だ。だが、この冬場の世界で、唯一といっていいほどに、生命を感じさせるのはすごいと思う。
ふと、ブルーシートが目に入る。その周囲にあるのは、本物の建物の様だ。多分、農作業に使う器具や機械が入っているのだろう。彼ら、春夏秋と必死に頑張る農機具たちも、冬はお休みの様だ。
空は灰色。どこまでも灰色。地面に比べて暗い色だが、こんな空も、その上には青空が広がっているのだろう。そうはとても思えないが。
空に向かって立っているのは、木々に電柱。そして、はるか遠くの電線路というのだったかな。そんな名前の高い塔。彼らですら、今の季節には青空は望めない。そう考えると、ただ高くても、人間に作れる高さには限界があるのだろう。
かたん、かたんと電車が行く。次の駅までただただ広がる、白と灰、たまに黒の世界を、走り行く。さぁて、外を見るのも飽きてきたし。暖かな暖房に包まれながら、ひと眠りしようかな……