第52回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
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投稿時刻 : 2019.08.18 13:39 最終更新 : 2019.08.18 13:55
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- 2019/08/18 13:55:37
- 2019/08/18 13:39:38
麦畑
すずはら なずな


私はただそこに在る。

空が高く美しく澄んでいる時も、雲の垂れこめる暗い空の下でも。

鳥たちだて、ただ生きて、食うものを求めて 私のところにやて来るだけ。
カラス?何だかの象徴だとかヒトは勝手にイメージづけるけど、私にしたら どんな鳥だて、虫だて同じ、私の周りで生きる命たちだ。ヒトが生きるの死ぬのと、何の関係があるだろう。

耳を怪我した男だたよ。目つきがうつろで、いつも何かぶつぶつ言てたけ。いや、何かと戦うように前を見据え、ここに居る間じう黙々と絵を描いている日もあた。絵を描くだけが生きている理由だとでもいうように。

だだ広いだけのこんな場所を描いて面白いのかと、たまにキンバスを覗き込む通りがかりの者もいた。でも話しかけるようなそんな雰囲気じなかたな。あの男の心はここよりもと他の場所に居た。

私だけを見てるんじなく、私だけを描いているわけじない。張り詰めて張りつめすぎて もういぱいいぱいで 切れそうな弦みたいだた。

耳を切た時は酷かたそうだよ。痛かろうに、どうしてそんなことを自分にできるんだろう。
友を求め、愛を求めて、でもその想いが強すぎるとおしつけみたくなて相手が怯んじうんだてね。可哀そうだとは思う。損な性格だと思うよ。

今じ高い値段であの男の絵が売れるらしいね。丸めて捨てた落書きとか腹たてて破り捨てたようなメモ書きでもあたらそういうのまでもさ。想像できなかたろうね、あの男も、あの男を見かけた奴らも。

あの男、東洋のウキヨエてやつを気に入て真似して描いたそうだよ。意味なんて解らないのに、そのまま文字まで描き写してさ。そういうの、その国の人たち有難がるらしいね。「偉大な画家」が愛したのが自国の絵だて、この間旅行者が話してた。耳、布で押さえて画家のポーズ真似したりさ、スマホで写真撮て。

私はここに在るだけ。
空が明るい時も暗い時も。うねる黒い雲も群れ成すカラスも、誰かの不吉な未来を示してなんかいない。ただその人の目にどう映るか。その人が絵描きだたらどんなふうに描くのか。

寂しいね。爽やかな風の吹き渡る日もある。どこからか花の香がして 生まれたての子猫がはしいで走る日も、子供たちの笑い声が響く日も、雨の後虹が出る日もある。

あの男にそういう私をもと感じて欲しかた。私の絵を描きながら幸せになて欲しかた。
そう、もと生きてて欲しかたよ。
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