第一回てきすと恋大賞
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自己詳察
茶屋
投稿時刻 : 2013.05.31 23:02
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自己詳察
茶屋


 暗い部屋。
 プロジクターから可視光が放射され、その光を反射する室内の粒子が光線上に浮かび上がる。
 白衣を来た男が一つ咳払いをして、緑色のポインタでスクリーンの文字を指し示す。
 神経細胞-Neuronという文字列だ。
「さて、まずは神経細胞について説明しておこう。神経細胞というものは、御存知の通り脳や神経を構成する細胞だ。形としてはいくつかの根こをはたような形をした細胞から1つだけやけに長い根こが生えてる。だいたいこんな形だ。それでこの長い部分、長い根こに当たる部分だね。そこが軸索というものに当たる。この軸索ていうのが情報、電気信号、の出力を担当する部分だ。細胞内外にイオンの濃度差を発生させる機構があて、そのイオンの濃度勾配によて電流が伝わていくんだ。で、この電流が細胞の先端まで行く。そこから他のニロンに情報を伝達しなけりいけないわけだけど、そこでは電流が流れない。細胞と細胞の間に隙間が開いてる。かなり小さい隙間だけど、つながてないからね。で、この軸索の先端ていうのが、シナプスていう少し太めの構造になている。ここからは神経伝達物質ではなくて、神経伝達物質の出番だ。聞いたことあるでし?ドーパミンとかアドレナリンとか。そういうの。そういうのを使て情報を伝達していくんだ。で、その神経伝達物質は他の神経細胞に受け取られる。それで受け取た情報をまた電気信号として伝えていくんだ。電気から物質へ、物質から電気へといた感じで情報は変換されながら伝わていくんだね」
 一気に喋たから口が乾いたのか、男はペトボトルのお茶を口にふくんだ。
 そしてまた一つ咳払い。
「個々の細胞の情報伝達はそんな感じだね。ではもう少し広くみてみるとどうなるか。電気信号ていうのは単に次にも伝えてねて言う感じで終わるわけじない。さきも言たように神経細胞にはいくつかの根こみたいなのがあて、そこからいくつかの他の細胞から信号を受けるわけ。で、その信号ていうのは信号を活性化させるものもあれば抑制させるものもある。だから単純なリレー競走みたいに伝達されていくわけじないんだ。伝達されたり、されなかたり、伝達を活性化したり抑制したり、そういう現象が起こる。しかも脳細胞ていうのはだいたい10002000億。天の川銀河の星の数が大体2000億個ていうから相当な数だよね。ま、僕の脳細胞はもとあると思うけど」
 男はそう言て口元に笑みを浮かべる。彼なりの冗談なのだろう。
「そんな感じで、たくさんの数の細胞が信号のやり取りをしているわけだ。それを可視化したら面白いだろうね。もう、無限に近いような信号パターンが見られるんじないかな。ま、もちろん、脳にはそれぞれ得意とする機能を持つ部位が分かれている。大脳とか、小脳とか、視床下部とか。よく聞くでし?例えば、人の顔を認識するのは側頭葉や後頭葉に偏在している顔領域ていう部位だ。例えばここらへんに障害があると人の顔を覚えられない。相貌失認ていう病気があたりする。多分ここには人それぞれの顔のパターンが作られて、顔の記憶やその人にまつわる記憶が呼び起こされるのだと思う。一つのパターンをきかけにして、他の色々な信号パターンが呼び起こされ、脳全体では複雑なパターンが作られていく。三次元的にはもちろん、四次元的にみればかなり複雑なものが。人が他人に抱く感情とか、想いていうのも、脳内でそれぞれ固有のパターンが有るのではないかと思うよ。憶測だけどね。そんなわけで人の精神状態てのは、信号パターンまで読み解くのは今のところ無理だけど、脳の活性化パターンを見ればある程度わかたりするものなんだよ」
 スクリーンに映し出されたスライドには脳のモデルが映しだされている。
「この部分、アーモンドみたいな形のこいつは扁桃体ていうだけど主に人間の情報に関係しているような部分だ。主に恐怖とか、ストレスホルモンの産出にも関係していて、今スライドに出ている脳みそはそこの部分が色分けされているけど抑制されている状態を示していると考えてくれ。もう一つの部分は側頭葉の一部、ここも感情にちと関わていたりしてどちらかと言えば負の感情、ネガテブな不安とかに関わている部分。三つ目が前頭葉、ここは長期記憶とか計画とか、判断とかに関わてくる部分。ここも抑制されてる。ま、そんな感じ。でもてちとこの脳みそはドーパミンが大量にでているような状態に近い。ハイテンシてやつだね」
 男はそこまでいて、一息つくと、聴講者のほうへ目をやた。
 聴講者は一人しかいない。
 若い、女の学生だ。
 いつも聞きに来てくれる、学生だ。
「どうしました?先生」
「いや、えーと、ここまでの所で何か質問は?」
「脳を調べれば感情がわかるていうのは何となくわかたんですが、具体的に今映てる脳はどういう感情状態を表しているんですか?」
 男は振り返て、スライドを見る。
 男は思う。
 自分の頭のなかも今、こういう状態になているのだろうか、と。
「恋、かな」
「はい?」
「好意を寄せている人間の写真を見せられた被験者の脳だよ」
「へ、面白いですね」
 彼女は笑た。
 きと今、男の中で前頭葉の機能が抑制されているのだろう。自分の気持ちを抑える事が難しいと感じられている。
 彼女の脳は今いたいどうなているのだろう。
 男は思う。
 自分と同じであて欲しいと。


参考
Wikipedia
 神経細胞 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%B4%B0%E8%83%9E
 シナプス http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%8A%E3%83%97%E3%82%B9
 相貌失認 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9B%B8%E8%B2%8C%E5%A4%B1%E8%AA%8D
 扁桃体  http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%89%81%E6%A1%83%E4%BD%93

Gigazin
 恋をしているとき、人は脳の一部をシトダウンしている 
 http://gigazine.net/news/20121119-brain-people-in-love/
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