てきすとぽい
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第58回 てきすとぽい杯〈夏の特別編・後編〉
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泣き女 ~ 書き男 ~
(
合高なな央
)
投稿時刻 : 2020.08.11 17:46
最終更新 : 2020.08.11 17:53
字数 : 925
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2020/08/11 17:53:11
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2020/08/11 17:49:44
-
2020/08/11 17:46:53
泣き女 ~ 書き男 ~
合高なな央
あれから20年がた
っ
た。僕は家族とは疎遠になり、血がつなが
っ
ていない妹が今どうしてるのかも知らない。
僕自身は10年前結婚し、離婚した。子供はいない。
相変わらず感情を表に出すことは苦手だ
っ
た。
仕事で祖母の家があ
っ
た県に出張に行
っ
た。それで昔のことを思い出したのだ。
祖母の遺体。お香の匂い。泣き女の叫び声。
僕は唐突に泣き女似合いたい衝動に駆られ、同行した上司に有給を願い出た。
出張の理由である現地の会社との契約がうまく行
っ
たことで、上司は上機嫌であり、連休をつぶして出張したこともあ
っ
て、普段は手がかかる有給はあ
っ
けなく受理された。
僕は帰り道で上司と別れ、以前祖母の家があ
っ
た島に渡
っ
た。
船を降り、宛てなどない行きあたりば
っ
たりの旅だ
っ
たが、泣き女を探すのは意外に簡単な仕事だ
っ
た。さすが田舎ネ
ッ
トワー
クである。
港で作業をしていた漁師のおばさんたちに尋ねるといきなりヒ
ッ
トした。
「ああそり
ゃ
上谷さんだがね」
「そら、奥の通りに今でも住んでなさるよ」
「携帯で電話してあげよう」
彼女は幸運にも僕のことを覚えていた。僕は約束を取り付け、島の雑貨屋の喫茶コー
ナー
のような場所で彼女と再会した。
祖母と何度か来たことのある店だ。磨き上げられたテー
ブルと椅子。古く使い込んではあるが不潔ではない。
やがて泣き女はや
っ
てきた。
僕はアイスコー
ヒー
を飲んでいて、彼女はイチゴのかき氷をたのんだ。
当然顔見知りなのだろう。店の人と二言三言世間話をした。
僕は注文の品がテー
ブルに置かれると、昔話もそこそこに切り上げ、どうしたらそこまで思い切り泣けるのか、できれば僕も思い切り泣いてみたい。どんな修行をすればいいのかと訊いた。
彼女の答えは意外なほど簡単だ
っ
た。別に泣き女にならなくても演劇サー
クルに入
っ
て、感情表現メソ
ッ
ドを学べばよいのではということだ
っ
た。
ふうむ。
僕は絶句した、生まれてこの方、学芸会の演劇で木や石や生き物じ
ゃ
ない役にしかついたことのない僕にはハー
ドルが高すぎる。
「それなら、小説を書いてみればいい」
と泣き女は言
っ
た。
――
なるほど。
そんなわけで、僕はネ
ッ
ト上で小説の書き手にな
っ
た。
2
ヶ
月に1作は書き上げている。
だけど、感情表現は未だ苦手だ。
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