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第59回 てきすとぽい杯
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病院の臭い
えく
 投稿時刻 : 2020.10.17 23:43
 字数 : 923
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病院の臭い
えく


私は病院が苦手だ。
耐えられぬほどの異臭ではないが、
日常で嗅ぐことの決してない薬か消毒液などが混じりあう特殊な臭い。
そして恐ろしいのは病院の白や灰のみの無機質に統一される様相が、
特殊な臭いが充満することへの違和感を全く消してしまうことだ。
私は病気や怪我、最悪の場合には死を迎えるであろう人間たちに、
まるでそれを全く感じさせない風体を装うように思える病院が怖い。

私に病院を苦手にさせた出来事のひとつに小学生の頃の記憶がある。
私の曾祖母は齢100歳を超える県内一の長寿であた。
祖父に連れられ介護施設で生活している曾祖母のお見舞いに行た。
子供だたので詳しくは覚えていないが、
街中でたまに見かける明るく開かれた介護福祉施設よりも、
厳かな重い雰囲気があたと思われる。
病院に着くと祖父は慣れた手つきで受付を済ませた。
祖父に手を繋がれ、廊下を進むと暗証番号付きの自動ドアがあり、
祖父は先ほど看護師から聞いたであろう番号を入力し先に進む。
薄暗く無機質な廊下を淡々と進む祖父を怖く感じた。
これは子供の自分だけが知らない日常なのだろうか。

曾祖母の病室の手前で床に座り込むお婆さんがいた。
私は病院内で看護師以外を初めて見かけた。
そのお婆さんは座り込み足を撫でているように見えたので、
足が痛めて歩けなくなてしまたのかもしれない。
祖父はそのお婆さんを気に掛ける素振りもなく通り過ぎてしまた。
私は薄情だと思たが言い出せず過ぎた。

初めて出会た私の曾祖母は比喩ではなく骨と皮だけだた。
人間は100歳を超えて生きるとこういう身体になるのだろうと妙に納得できた。
私に曾祖母の声は聞き取れなかたが、祖父はうんうんと頷いて笑ていた。
人間は100歳を超えて生きるとこういう会話をするのだろうと妙に納得できた。

お見舞いを終え、病室を出ると先ほどのお婆さんはまだ座り込んでいた。
病室の出口から見るとお婆さんは痛めた足を撫でていたのではなかた。
座り込み何もない床を撫で、無を延々と掴み口に運び食べていた。
直視してはいけないと感じ祖父を挟み反対側の手へ繋ぎ変えた。

私は数十年先に床を撫で、無を食べ続けることはないだろうか。
病院はそんな私を無機質な臭いで包み込むのだろうか。
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