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第59回 てきすとぽい杯
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くちなしの木
ぷーち
 投稿時刻 : 2020.10.17 23:38
 字数 : 2547
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くちなしの木
ぷーち


 よく犬は人間の何十倍も嗅覚が鋭い、実際に鋭いとは思います、最近読んだ雑誌にも書いてありましたけど、犬は飼い主がどういう気持ちなのか、匂いでわかるらしいですね。悲しんでいるのか、喜んでいるのか、犬がスと空気を吸い込んだら分ていうのは、すごいなあと思う反面、怖いですね。ジマンシパードとかボーダコリーとかああいう賢い犬を飼いたい場合は、飼い主が彼らよりも賢くないといけないんですね。よく言われるのが、昨日と今日で飼い主が違うこと言ていたりすると、つまり一貫性のない言動を飼い主がしたりすると、もう彼らは、は、何こいつ、ついてけんわほんまて、もう終わりなわけです。だからですね、もしジマンシパードを飼ていたとして、言動と感情が不一致の状態で接したりすると、すいません、いい例えが浮かばなかたので、この抽象的な状態のまま話させてもらいますけど、ジマンシパードの頭の中で、一貫性のない、しもない奴ていう解が出てしまうわけです。感情てそんなコントロールできるものじないじないですか。だから大変ですよ、ああいうジマンシパードだとかボーダーコリーだとか賢い犬を飼うのは。初心者にはまずお勧めしないですね。

 犬の話をしましたけれど、人間も人間で匂いに敏感だたりするんですよ。どこで聞いたのか忘れちたので、出典を提示して皆さんにこの信憑性を証明することはできないのですが、なんでも、匂いていうのは人間の記憶に強烈に結びついて、脳細胞の中に保存されるらしいですよ。ありませんか? 線香の匂いだとか、畳の匂いを嗅いだときに、ふとおじいちんの家の柱の木目、あの人の顔の木目のことを思い出したりだとか。コインランドリーの前を通たときに香た石鹸の清潔な匂いと、素敵なあの子の制汗剤の匂いが結びついたりだとか。あるでしう?

 つまり、人間にとても匂いというのは大事な要素なわけです。だから人は香水をつけたり、柔軟剤を入れたり、良い匂いがするてことは遺伝子が遠いていうことだから、僕らはとても相性が良くて、これはもう運命なんじないかなとか言たりするわけです。

 今は11時3分。一応あと30分持ち時間が頂けているので、残りの30分間、私の記憶の話をさせて頂いてもよろしいですか。この問いかけは反論を予定していない、よろしいですか、と尋ねておきながら、話しますよ、という宣言ですから、そのご認識、よろしくお願いいたしますね。

 三大香木てご存知ですか。沈丁花、くちなし、金木犀。もしご存知でなかたら、これ知ているとお上品な雰囲気が出ますから、覚えて帰てくださいね。沈丁花はどんな香りか今思い出せません。さきは知たかしちいましたけれど、沈丁花自体どの花のことかわかていません。まあ、生きていればそういうこともあります。金木犀、これはわかります。金木犀の香りを嗅ぐと、くしみが出ます。でも良い匂いですよね。一時期、金木犀の香りの香水が欲しくて色々探し回たこともあります。母親に、トイレの芳香剤みたいにならない? と言われ、なるほどその危険性もあるのか、と納得したので、最終的には買ていないんですけれど。くちなし、英語ではガーデニア。このくちなしの香りは本当に大好きで、確か初めてこの匂いを嗅いだのは、どかのお店で売ていたシンプーの香りがくちなしで、それを嗅いだのが初めてなのです。そのシンプーは買てしばらく使ていましたね。ガーデニアの香りがすると書かれていた、ペンハリガンの「エレネシア」という香水も、大学生の時ずとつけていました。それぐらい大好きな香りだたんです。

 さき、沈丁花はどんな香りでどんな花かわかりませんと言いましたけれど、くちなしも少し状況は似ていて、香りはシンプーやら香水やらで嗅いだことがあるから分かるけれど、どんな花なのかは全く知りませんでした。

 6月ぐらいだたと思います。彼氏と公園をデートしていた時のことです。その公園はかなり古い公園で、レトロスポトとかネトで検索をかけると、ランキングの一番上に出てくるような、古い、古い公園です。彼氏がトイレに行きたい、と言たんです。でも古い公園なんです。トイレはあるのですが、いかんせんそのトイレも古くて、有象無象が便器の中から出てきそうなトイレなんです。よくホラー映画とか、私はホラー映画は好きじないので観たことがなく、これはあくまでもイメージ、そういうイメージがあるよねていう例えなんですけれど、ホラー映画でチカチカと点滅する蛍光灯とかあるじないですか。このトイレもその蛍光灯がチカチカしていて、黒い虫がブンブン飛んでいたんです。

 私は感受性が豊かで想像力も豊かな方ですから、そのトイレを見た瞬間に、ウワて頭の中にイメージが浮かんできて。トイレの小便器の前に立つ彼氏、すると後ろの個室のドアがゆくりと開き、中から油でギラついた頭をした、動物に例えるならばガマガエルがしくりくるような、変質者のおじさんが、その手には包丁が、とここまで浮かんできたんですね。

 もう私、怖くなて、もうちと我慢して違うところ行こうよて言たんですけれど、彼氏はもう我慢に我慢を重ねた上でのトイレ行きたいだたらしくて、膀胱炎になたり、脳にアンモニアがのぼて行たら大変だと思て、トイレ行ておいでて言たんです。

 丁度、傘を持ていたので、有事の際に備えて傘を、こう、中世の騎士みたいに構えて、変質者が個室から出てきたらすぐにその脳天を貫けるよう、準備万端、いつでも出て来いという心持ちで待機しました。トイレの入り口の少し横、歩道の敷かれていない土のところに立つと、トイレの個室のドアが鏡越しに見えて、私はそこで神経をウニ並みにトゲトゲと尖らしていました。

 その時です。あの香り、私の大好きなあのくちなしの香りがしてきたのです。おやつの匂いを追うビーグルのように鼻を香りに導かれるまま、振り向くと、そこには白い花がたくさんついた木、くちなしの木があたのです。

 以来、梅雨の時期にくちなしの香りが香てくると、いつもあのくちなしの木のことを思い出します。
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