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第60回 てきすとぽい杯〈紅白小説合戦・紅〉
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ほぼ感染者
(
住谷 ねこ
)
投稿時刻 : 2020.12.12 23:53
字数 : 1520
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ほぼ感染者
住谷 ねこ
朝起きて、鏡を見て「あ」と思う。
真紀子さんの顔は絵の具を塗
っ
たように真
っ
青だ。
どうやら今日はゾンビの日らしい。
洗面所に常備している体温計で測ると体温は35.
5度だ。
もともと体温は低めでゾンビでない日でも36.
5度を越えるのはまれなのだ。
なんとか温度が上がらないかと顔を強くこす
っ
ていると
後に普通の顔色の妹が立
っ
ていた。
「お姉ち
ゃ
ん、またゾンビなんだ」
そういえば妹がゾンビにな
っ
ている所をいまだ見たことがない。
「昨日はかろうじて普通だ
っ
たけど、おとといはゾンビだ
っ
たよね」
「おとといも普通だ
っ
たわよ。その前の日はゾンビだ
っ
たけど」
「ほぼ、二分の一の確率でゾンビじ
ゃ
ん」
悔しいけど妹の言うとおりだ。
別にゾンビにな
っ
たから
っ
て見た目以外は特に何かが変わるわけではない。
ただ、肌は全身真
っ
青で、目は普通の時より一回り大きく見開き
瞬きをしなくなる。そして体温が35.
8以下になる。
それだけなのだが、見た目、結構怖い。
真
っ
青で目を大きく見開いたまま笑
っ
たり喋
っ
たりする姿は
自分でも不気味に思う。
とても他人には、特に好きな人には見せたくないし
逆に見せられたくない。
「あー
あ、今日はデー
トだ
っ
たのにな
ぁ
」
真紀子さんはが
っ
かりする。
この顔では彼に会えない。
最近はすれ違
っ
てばかりでなかなか会うことができない。
自分が普通の日でも、相手がゾンビではやはり会わないからだ。
どうして広ま
っ
たのかは分からないが、2年前にロシアのどこそかに
それほど大きくない隕石が落ちた。
落ちたのはツンドラ平原のなにもないところで人的被害はなか
っ
たが
そこから一番近い村で真
っ
青な顔の目の、み開いたままの人が出て
それは静かにけれど素早く世界へと瞬く間に広が
っ
た。
昔ゾンビは死人であり、生者を喰らい
喰われた生者は死ぬとゾンビとして生き返り、また生者を喰らう。
という映画があり、そのゾンビの肌が青か
っ
たのでゾンビ感染症と言われるようにな
っ
た。
とはいえすでに全人類ゾンビ感染症でありこの場合、青くな
っ
た、つまり体温の低い時期を
ゾンビ感染症と言い慣わしている感じだ。
妹だ
っ
て、体温が35.
8度以下にな
っ
たことがないだけで
ゾンビ感染症であることには変わりないのだ。
真紀子さんは今日はゾンビだが明日は多分普通の人だろうと思う。
なぜなら、そろそろ生理が来る頃だからだ。
生理が来ると体温が上がる。
いくら低体温症気味でも生理の時は最低でも36.
8度にはなるのだ
っ
た。
しかたない。デー
トは明日以降にしてもらおう。
ラインでその旨を送るとすぐに返信が来た。
「もう、別れよう。ち
ょ
っ
ともう無理だと思うんだ」
「なんで? そんな明日から一週間は間違いなく会えるよ」
「うー
ん。でもさ、なんかつまり言いにくいけど」
「けど?」
「生理中しか会えない
っ
てことだよね?」
「そうじ
ゃ
ないときもあるじ
ゃ
ない」
「
……
まあ、でもとにかく、そういうのいやなんだよね」
「
……
」
「だから、悪いけどこれで終わり
っ
てことで」
それきり、何度送
っ
ても返信は来ず
電話も出てもらえなくな
っ
た。
あー
あ。
このゾンビ感染症が蔓延してから
街は心なしか人出が減
っ
たし
結婚率や出生率も激減した。
でも実はその裏で、ゾンビ感染症、というかゾンビ感染症の方が
普通の人でいる日にちより多い人同士が一緒に出掛けたり
カ
ッ
プルになり、結婚し、子供ができ
その子供はほとんどがゾンビ感染症の日という
真
っ
青で目を開けたままの人の方が増えてきているのだ。
この調子だといずれ人類はゾンビ感染症が普通で
普通の人が淘汰されるのではないかと懸念されている。
もう、それならそれで早くそうな
っ
てくれた方がいいなあ。
と真紀子さんは思いながら今度はゾンビ感染症を前提とした
マ
ッ
チングアプリをダウンロー
ドした。
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