第64回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
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遠い夢の中
投稿時刻 : 2021.08.22 10:32
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遠い夢の中
浅黄幻影


 花火を見に来ていた。川の上流で花火大会をしていて、ぼくとお姉さんは並んで歩き、町の光に邪魔されない場所で、ぼくらはふたりだけ。
「花火はきれいだねえ。夜空に浮かぶ花だものね」
 でも、花火を見て歓声を上げる瞬間の笑顔、輝きには叶わない。心には花火以上にお姉さんの笑顔が焼き付いていた。
 大きな花火が連続で打ち上げられ、気持ちはさらに盛り上がる。楽しい時間はあという間に過ぎ去ていき、クライマクスは近い。
 終わりは突然に訪れた。無音と闇が続く。
……終わたね」
 こくりと頷いた。
 お姉さんはそとぼくの手を握て歩き出した。手を繋いだことは何度かあるけど、夜の散歩は初めてだ。お姉さんと会うときはいつもドキドキする。だけど今夜は、アスフルトと一緒に繋いだ手の熱で、もう沸騰しそうになた。

 今、ぼくはお姉さんの部屋にいる。シワーを浴びたぼくはお姉さんのワンルームでベドの端に座ている。
 お姉さんはまだシワーを浴びている。今夜は友達と遊びに行くと言たけれど、間違いではない。お姉さんとはまだ友達だから。今夜、これから、今から踏み出すかもしれないだけで……
 お姉さんの部屋をそわそわしながら眺めた。部屋の芳香剤は上品だし、掃除は行き届いている。時計は金魚鉢風のもので、モザイクの金魚の影が光を浴びて少しずつ動く。エアコンの風はお姉さんの優しさのように快適だ。
 でも座ているベドを考えると頭はまた沸騰する。薄手の毛布しかないベドを見ると手が汗ばむ。これから何が起こるのかを考えると、よりいそう……
 シワーの音がふと止み、しばらくしてお姉さんが半袖ピンクのパジマで出てきた。バスタオルで髪を拭いている途中だた。
「スキリした」
 初めて見た艶ぽい姿とビールを飲んで見せた笑顔と吐息に、ぼくも喉を鳴らした。
「おと、これはきみには早いぞ」
 意地悪そうにビールを置いて言う。
 頷いたけど、ぼくはもう一言も話すことはできない。
 ひとしきり髪を拭いたあと、お姉さんはぼくのとなりに座た。ふわりと漂うボデソープの香りがした。 
「でも、こちはもう……電気消そうか?」
 お姉さんはぼくの手を広げて、手を合わせた。

 ――あの頃を何度も夢に見る。まるでもう一度あの日に戻ているように、心も身体もすべてを感じる。けれど、現実に戻ると夢は次第に輪郭を失ていき、まるで消えた花火のように色褪せてしまう。君がいた夏。
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