第68回 てきすとぽい杯
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花が足りないほどの
投稿時刻 : 2022.04.16 23:29 最終更新 : 2022.04.16 23:32
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- 2022/04/16 23:32:52
- 2022/04/16 23:31:54
- 2022/04/16 23:29:49
散る!
浅黄幻影


 二〇〇四年 ○月×日
 学校で、いつかやりたいことはなにかと聞かれた。ぼくは飛行機に乗りたいと言た。飛行機に乗て何をしたいかを聞かれたので、ずと遠くにいる母に会いに行きたいと言た。いつか叶うといいね、と言い、先生は笑た。

 二〇〇七年 ○月×日
 一週間前のこと、飛行機を見たいと思い、友達と空軍基地の近くまでいた。もちろん、知られないように、遠くから見ていた。少し離れた林の中から見ていればバレないだろうと思ていた。
 思たとおり、遠くから見ている分には平気だた。けれど、友達がもと近づこうと言い、ぼくもおもしろくてついていたのが……いけなかた。坂道で躓き、転がていた途中で尖た何かの部品が目に刺さてしまた。助けを求めて基地にいき、止血をしてもらい、それから専門医のいる街の病院までいたけれど、もう目はダメだと言われた。
 目が見えないことはとても具合が悪い。左側が見えない。勝手のわかるはずの家でもものにすぐにぶつかる。街に行くのも怖い。

 二〇一八年 ○月×日
 幼い頃に考えていた夢はパイロトだたけれど、今日、ぼくは花畑に就職口を見つけた。母が花をとても愛していたからだ。しかし、さて、何の花が好きだただろう。思い出に残る母の姿はいつも花を手にしているけれど、よく覚えていない。これから花を育てていくうちに、もしかしたら思い出すかもしれない。

 二〇二〇年 ○月×日
 今日、初めて本当の恋というものをした。花畑を見学に来た人たちがいて、そのなかにあの人を見つけた。これまでだて、女の子を見るときには少し意識して相手を見ていたけれど、これはもうそういう気持ちではなかた。あの人が手にしていたバラは、毎日目にしているものよりずと輝いていた。
 あの人を思うとともに、あの人に似合う花を贈りたいと思た。

 二〇二二年 ○月×日
 今日は結婚して二年の記念日。
 しかし、今日は世界が経験する最悪の日になてしまた。
 突然のことだた。私は畑で水やりをしていたところだたが、同僚が大声を上げて駆けつけてきて、戦争が始またと告げた。まさかと思たが本当だた。隣国が攻めてきたのだ。
 敵は陸と空から攻めてきて、北の地区を焼いたらしい。私たちのいるところまでは遠いものの、もし戦渦が広がれば……いや、戦禍は広まるに決まている。「ここまで敵は来ない」などと甘いことは言ていられない。力で不利な我が国が音を上げるまで、あらゆるものも、人も、傷つけ続けるだろう。

 二〇二二年 ○月×日
 戦渦に巻き込まれたところをはじめとして、多くの人が国を出ていく決意をしている。私たちもどうするか考えている。けれど、妻はどうも乗り気ではないようだ。花畑が気になているのか、と聞くと、そうではない、とは言うものの、はきりとした理由は言わない。もちろん、花に一生は捧げたいと私も思ているが、その一生を今、失うつもりはない。
 なんとかs。今、ラジオからすべての国境で男の出入りが禁止されたと聞こえてきた。選択肢はないようだ。

 二〇二二年 ○月×日
 目に障害を持つ私と妻ならば他国へ行けるかと思たけれど、そうはいかなかた。見える目があるのなら見続けるのが役目ではないかと、追い返された。だたら、と妻も残ることを決意した。ならば……仕方ない。

 二〇二二年 ○月×日
 花畑の農民に何ができるかというと、何でもできる。すでに侵攻はこの街の北にまで近づいている。まだ見渡せる郊外で相手を叩いているところだが、砲弾は町を破壊しつつあり、犠牲者も多い。空軍ががんばているものの、相手も戦闘機を飛ばしてくるので味方は少なくなる。戦況は国内各地に広がり、あまりよくない。

 二〇二二年 ○月×日
 敵は建物をあちこち破壊して人をいぶり出してくる。市街戦……ではないかもしれない。殲滅する気かもしれない。
 しばらく前から死者が増えていた。妻は死者を弔うため、花を農場から持てきている。育ちすぎた花も多くなり、あまりいいものは残ていないが、彼女が供えた花に遺族は感謝をしている。
 しかし今日、彼女はもう供えるための花がないと言た。
 死者が多すぎて供える花が足りないのだと。

 二〇二二年 ○月×日
 花はついになくなり、もう枯れていくばかりになた。
 早く戦いが終わることを祈ている。
 でなければ、すべてが散てしまう。早く、早く……
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