第6回 てきすとぽい杯〈途中非公開〉
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眩暈の果てに
投稿時刻 : 2013.06.15 23:42
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眩暈の果てに
工藤伸一@ワサラー団


 緩やかに流れる有刺鉄線の間を潜ろうとして血まみれになた身体の置きどころに困り果てた挙句に脳味噌まで蕩けそうな熱気にやられ、むしろその脳が世界の空気を沸騰させているのだと気付いたが故に血潮が蒸発するのも無理はないのだからと思えば何もかも合点のゆく塩梅なのだからして、これより先に起こりうる全ての可能性を排除してもなお倦怠感を払拭することもままならぬまま、ただ徒に人生の過ぎゆく様を俯瞰するより他に術もなく時代は倒錯し続けるのだた。

 だからといて別に手応えがなかたわけではなく、このようにして気を遣わせてしまたことへのせめてもの御礼を兼ねて水脈の元を辿てみたらば、棘だらけの道筋を歩まざるを得ぬ事態から逃れることは出来なかたのであり、かつては存在したはずの遊歩道の痕跡を探す手立ては最初から諦めていたにしても、このまま進み続けるためにはもう残りの血液からして足りないのは十分に理解しているのだから。

 とりあえず行けるところまで行こうとする意志すなわち思考から解き放たれた自由な精神の方向性に従うことの大切さを今更ながら思い知りつつも、自らの内臓を滋養として食み蝕む虫のように脆い関節の痛みなど感じないふりをして、この目論見を企てた陰謀の深淵の奥底に潜む不断の決意を蹂躙するような心持さえ忘れなければ。

 いかに空間を移動することが不可能だとしても精神世界の暗闇に果てなどあるはずもなく、いそ深く瞑想して時間を遡る手法を用いれば済むことは予め知ていたというのに、あえて目に視える形で実践せねばならぬなどと息巻いてしまたのが運の尽き突き弾く皮膚の感覚それだけに意識を集中して、何も畏れることなど無かた子供の頃の無垢な魂を取り戻したい一心で斯様に無様な様態を呈してしまた幼形成熟の指先にまで沁み渡る悔恨の厳格さに眩暈は止まず。

 見栄は肥大するばかりで見る影もなく張りを失て海水と血液が混濁して鱗を潤す瞬間に希望を託し、もう宝箱には何も残ていないからといて開けずに済ましてきた過去を呪う戒めの代価として、大腿骨の辺りに充満する草木の焼ける匂いに咽び泣く純粋な日々など過ごしたこともないというのに。

 左右の見地から中央に寄りがちな政治的配慮さえ気にしなければ、倫理的欠如など血尿ほど薫る立ち上る納涼の彼方に聳える聴こえる消える時にこそ絶頂に至る快楽の浅ましさに耽る不愉快な演説など容易くて、今から最後まで突走る原動力として霞みながら砕ける流氷の冷たさ儚さ憎めなさ情けなさ。

 空洞の図像を思い浮かべながら無償の憎悪を恋人に送りつける世間体の耐え難き有難さ、数行目には潰えてしまう命の宿り木に凝り固また地層の連なり、使い捨ての眼球を瞠る如き恒星の軌道の妖しい勇ましさを讃える数式の甘美な響き、味わいも見境もなく舌先に吊るされた縄紐の目の粗い繊細な緊張感、そしてその偉大な功績なればこそ。

 引き出しながら落ちていく物語を伝え這い蹲る地点の抵抗を寸止めにして、科学の未来を占う美学を磨く見縊る通じない遺伝子の向こうから不意に噴き出す不満の料簡、利権は唐突に終りを告げ包み隠さず罪深く爪先の綻びを隠すことなく乱すべからず迷う逃亡者の痕跡から漂う臭気に含まれた現在進行形の終末。

 未遂のまま続く虚構の悪びれない様相に抱かれながら、未必の身柄を構成する両極の磁力に反発する三人称複数の語族・貴族・家族、いずれの集団にも共通する概念の記念碑的な自動化された幻聴の気味悪さ、言葉を尽くさんとて筆舌の溜まり場に吹き荒ぶ野心を持て余す淫らな質感さながら、面目を潰す理念は禁断の地域への言及なくして甚大なる虚飾に極まれり。(了)
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