札幌は常に形を変えていく街として発展し、今も成り立
っている。
なにかの機会で生まれ育ったところをグーグルマップで見てみたら、どこが馴染みの店だったのか見当がつかなくなっていた。
クリーニング屋の幼馴染のあの子はどこに行ったのか。
アーケードゲームが置いてあった小さなスーパーはどうなったのか。
そこの細い道を挟んだ八百屋はどうしてしまったのか。
まったくわけがわからなくなっていた。
そこから歩いて20分くらいにある繁華街でもそれは変わらなかった。
池袋なら今でもサンシャイン60が健在なのに、札幌ではテレビ塔や大通公園、あとはなんとか文化財みたいなところしか昔の面影は現存していない。
おまけに路面電車の停車位置まで少しだけ延伸して変わってしまっていた。
子供の頃にいつか入ろうと思っていた狸小路にあったラーメンの名店は、高校を出てちょっとしたらとっくになくなっていた。
しかもあのニッカのヒゲじじいの看板も変わるという話だ。いったいどこまで変わりゃいいもんだか。
そんなふうに、常に形を変えていく街であるなら、そこで生まれ育った男が札幌を捨て、他所で変わっていってもいいだろう。
もともと馴染まなかった。
どんなに環境が変わっても、札幌の中にいる限りは疎外感が強かった。
地元に密着できるのは結局才能だろうと思っている。
そんなものはなかったということになる。
というわけで、もう東京のあたりに住み着いて40年近くなるが、一向に出ていこうという気にならない。
そうこうしているうちにいろんな人と知り合い、もはや札幌の知人の数倍にはなっている。
その中にはすでに亡くなった者もいるが、相変わらずつながりは多い。
そんなことをふと思うのも、トシを取ったせいというのもあるだろう。
最近はゴールデンウィークが大型連休になってしまったせいでもあるのか、鯉のぼりを見ることがなくなっていることに気がついた。
つい先日池袋の大都会で友人と待ち合わせて飲んでいると、その話題になった。
「なあ最近鯉のぼりって見ないよな? そっちはどうなん?」
その友人とはもう30年の付き合いで、自衛隊時代の知人を通して知り合ってから、何かあると飲んで話している。
知り合った頃は、彼は東武練馬に住んでいて、その近辺でよく飲んだものだった。
今はヘラブナ釣りがしたいという理由で北坂戸に住み、機会があれば鎌北湖で車に乗り付ける。
仕事場が池袋なのでもう少し近くに住めばいいと思うのだが、本人がどうしてもというので仕方がない。
「そういえば見ない」
「少子化なのか、それとも旅行に行くから飾る必要がないのかな」
「どっかの住宅街ならそんなとこもあるんじゃん?」
「おれんちは貧乏だったから鯉のぼりなんて手で振るアレしかやんなかったよ」
「おれんちもだよ」
「太郎鯉のCM覚えてるか? おーよげよおよーげー太郎鯉ーっての。あれうらやましかったなあ」
太郎鯉とは越後製菓のではなく岡本太郎作成の鯉のぼりでもない。
遠い昔に榊原という会社が東レと組んで作った鯉のぼりで、CMで流れていたアップテンポな曲がわりと有名だ。
「あったっけかなあ」
「おれテレビっ子だからよく見てたんだよ、おまえはどうだったっけ?」
「よく覚えてないわ」
「でもガンダムは見てたじゃん」
「あれは別だよ」
「おれなんか3回目の途中で必ず寝てしまうけどな」
「おまえには難しかったんじゃん?」
「うるせーなそのとおりだけどさ」
例年だがなぜかゴールデンウィークは普段の2倍忙しく、人と会ったり何か用事があったりして大変なのだが、この飲み会もその一環で、たまにしか会えなくなった友人と交流を暖めるいい機会でもあるのだ。
「そんなことより釣り行く時間ねーよ」
「でも年金繰り上げでもらわないんだろ?」
「そうだけどさ」
「いつだかいつ死ぬかわからんしおまえんとこ早死家系なんだからもう少ししたらやった方がヒマも出来るんじゃん? って言ったことあるよな」
「でもよー多めにもらいたいんだよー」
トシを取ると老後か健康の話題になりがちで、なかなかシブいお年頃になった気がするが、まあ変に若ぶったりするよりはマシかなと思って話している。
大都会では大体テーブルが狭い二人席で、チューハイ何枚券とかいうのを買ってテーブル番号を書いて指定場所に置き、注文が来たらあらかじめ頼んでおいたたぬきそばをアテに飲むのがルーチンだ。
たぬきそばがいちばんアテとしてコスパがいいからだ。
友人はだいたい違うものを気分で頼む。
貧乏人のための居酒屋として一部で有名だが、最近は若い女子もよく見るようになった。
不景気と物価高をここでも実感するわけだ。
しかも西口なので、おいそれと他地域に馴染んでいるやつなどは界隈の評判を恐れて来ない。
実に気楽な店なのだ。
松戸にもあったようだが、去年なくなったらしい。
西口なんて昼間は至って平和なのだ。
だがムダに恐れているやつらのおかげで荒れることもなく、平和利用出来ている。
いろいろと話してから次行こうとなり、3件も回ると6時間も飲んでいた。
適当に駅の改札口まで送り、今どき誰も使わない、いわゆるほうほうの体で帰宅した。
やはり行く道々でも、鯉のぼりのコの字も見なかった。
やっぱり書いててあまり面白くならなかった。
酔っ払ってるとたまにアイデアが浮かぶのだけど、メモを取らないことにしているので翌日にはすっかり忘れている。
まあメモを取ったところで酔いが醒めたらほとんど使い物にならないことはわかっているが、なにかしらのヒントとして書いとけばよかったなーと思わないこともない。
でも今回は誰も出さない公算が大きいので、いたしかたなくメモを取って書くことにした。
メモには出だしの文しか書かなかった。
出だしさえなんとかすればこうやって面白くなくてもうんうん言って書けばつなぐことが出来る。それが小説のいいところだ。
面白さを度外視すれば何でも書けるのだ。
ドッカーン!バリバリバッキューン!
バラバラバラバラヒュンヒュヒューン!
ガガガガドドドドブンガラガッシャドンドドーン!
ピュイピュイボボーン!
こん平でーーーーーーす!
あのね、おっさんもうじき変なもの着るお年頃なんすよ……。