推敲バトル The First <後編>
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アイス・ボックス
投稿時刻 : 2013.06.22 17:27 最終更新 : 2013.07.29 21:45
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更新履歴
- 2013/07/29 21:45:53
- 2013/07/21 01:38:04
- 2013/07/16 21:16:36
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- 2013/06/22 17:27:47
アイス・ボックス
゚.+° ゚+.゚ *+:。.。 。.


5/7/2013 前半部の一部の文章の変更・削除(犬子さんのご指摘を受け)
後半の視点切り替えの部分を全て削除(頂いた感想から、テーマがブレてしまているようだと感じたため)
今後ラストシーン加筆改稿します

 子供の頃て、自分の周りの世界が全てだから、家の中のちと変わた習慣だの状況だのて、ほかの家でも一緒なんだと思いこんでた。
 たとえば、私がまだ小学校に上がる前の頃。我が家の冷蔵庫はすごく古いタイプで、冷蔵庫の上に左開きの冷凍庫が乗てた。もう少し大きくなてから知たけど、お友達の家の冷蔵庫はどこも皆新しめで、たいてい引き出し型の冷凍庫が冷蔵庫の下についてたらしい。でも私はだいぶ長い間、どこの家でも冷蔵庫の上には冷凍庫が乗てるんだと思てた。
 私がまだ3歳か4歳の頃だ。お兄ちんは私より2つ年上だから、5歳か6歳だたはず。夏休みのある日、お兄ちんは近所の駄菓子屋でホームランバーの当たりを引いた。これは当時の私にとては一大ニスだた。ホームランバーの当たりを見るのは初めてで、その時、私はお兄ちんがヒーローに見えた。
 お兄ちんも、ホームランバーの当たりを引いて嬉しかたし誇らしかたに違いない。でもそんな浮ついた感情や驕りはおくびにも出さず(少なくとも当時の私にはそう見えた)、きわめて冷静な態度で、当たりによて手に入れた二本目のホームランバーを冷凍庫に仕舞おうとした。
「これ、俺のだかんな」
 お兄ちんは怖い顔で私を睨みながら言た。
「手出すんじねえぞ」
 お兄ちんは背伸びして冷凍庫の扉に手を伸ばしたんだけど、背が足りなくて全然届かなかた。何度かつま先立ちになたり、ジンプしたりして、冷凍庫を開けようとしたんだけど、どうしても無理で、そのうち諦めて冷蔵庫を開けて、一番上の棚の右の方に当たりのホームランバーを隠した。当時まだ5、6歳だた少年のやることだから、まあ、仕方ないよね。私は何の疑問も持たず、冷蔵庫を閉めるお兄ちんの背中を見ながら、ぼんやりと、ああ、お兄ちんは、大切なものは冷蔵庫に仕舞うんだなあと、子供心に思ていた。
 当たり前なんだけど、ホームランバーは冷蔵庫の中で溶けてしまて、冷蔵庫の中がべちべちになたから、買い物から帰てきたママに、お兄ちんは叱られてしまた。その時、私はなんだか、無性に悲しくなてしまた。大切なホームランバーを失た上に、ママに叱られているお兄ちんがかわいそうで。それで、当時3、4歳だた私は、悲しみのままに泣き出した。今思えばなんてことしたんだろう。突然その場で私が泣き出したものだから、ママはもとかんかんになたんだ。私がなんで泣いてるのか言わないものだから、ママは、お兄ちんが私のホームランバーをいじわるして台無しにしたと思いこんだんだ。お兄ちんは誤解されてきつく怒られたのに、泣かなかた。

「ねえ、お兄ちんて友達いないの?」
 夕方6時、夕飯時になてようやく起きてきたお兄ちんに、私は言た。眠そうに目をこすた後、お兄ちんは何も言わずに体を起こす。ち、無視かよ。こちはお兄ちんがずと寝てるからずーと暇だたのにさ。
「お兄ちん、入院してから全然学校の人お見舞いに来ないじん」
 お兄ちんは何も言わない。
 もうすぐ夕食が配られるからかな。廊下の方は少し騒がしくなてきた。カーテンで仕切られた隣のベドの方からは、夫婦と思われる中年の男女の他愛もない会話が聞こえる。お兄ちんは怪我で入院してるんだけど、お隣さんは何かの病気の手術で入院しているらしい。お兄ちんは同じ部屋の他の人と全然話さないから、私も詳しい事情はわからない。
 お兄ちんは誰とも話さない。看護婦さんとも会話しようとしないし。お見舞いにもほとんどだれも来ないから、私ぐらいしか話し相手なんかいないはずなのに、入院してから私とも話そうとしてくれない。
 テレビをつけた。夕方のバラエテ番組をやてた。
「あの子、また来てたよ」
 あんまりにも暇すぎて、私は、言いたくなかたのに、言てしまた。お兄ちんの目がちらりと一瞬だけこちを見た気がしたけど、気のせいかもしれない。
「お兄ちん全然起きないのに、ずーとここに座てたよ」
 そう言て、私は自分が座てる丸椅子を指さした。お兄ちんはもうこちを見ない。まあ、お見舞いに来た同級生の女子が、この丸椅子以外のどこに座るのかて話だから、これはどうでもいい情報だたかも。
 それきり、またお兄ちんはむつり黙り込んだ。テレビの中で若手のお笑い芸人たちがくだらないこと言てじれあてる。スタジオの笑い声が聞こえてきた。たぶん面白いことをしているはずなのに、お兄ちんは画面を見つめたままちとも笑わない。つまんない。今日はもう帰ろうかな。そう思たとき、お兄ちんはサイドテーブルにあたペトボトルに気付いたようだた。
 あの子が持てきたんだよ、と言おうとして、やめた。今日はお見舞いに来たのあの子だけだたし、あの子はいつもレモンウターてくるから、言わなくたてお兄ちんはわかてる。
「私、あの子、嫌い」
 お兄ちんは何の反応もしない。
「なんかさ、ぶりて感じ。お兄ちんの前では大人しくしてるけどさあ、絶対腹黒いよ」
 廊下からキスターの音がして、看護婦さんが夕飯を運んできた。お兄ちんが何故かちと慌てたように、レモンウターを備え付けの冷蔵庫の中に入れた。ちい冷蔵庫だ。冷凍庫はついていない。その冷蔵庫の右上の小部屋に、素早くペトボトルが放り込まれて、ぱたんと音を立てて扉が閉また。味気ない感じの料理ばかり並んだトレイがお兄ちんのテーブルに運ばれる。お兄ちんは怪我で入院してるだけだから何でも食べられるはずなのに、こんなのしか食べられなくてかわいそう。ママもお父さんも、お見舞いに全然こないし、お小遣いもくれないから、お兄ちんは売店で好きな食べ物買うこともできないんだ。あの子も、レモンウターなくてもとお菓子とかそういうのを差し入れればいいのに。気が利かない女。まあ仕方ないよね、そんな家庭の事情なんて知らないもん。お兄ちんのことは私が一番知てる。
 でも、お兄ちん、レモンウターを、冷蔵庫の一番右上の小部屋に入れたなあと思た。ホームランバーのことを思い出した。

 冷蔵庫になんか入らなければ良かて、何度か思た。お兄ちんには言たことないけど。
 お兄ちんはよく、お前は俺の妹なんかじねえし、て言てた。それは事実だたし、私はまだ子供だたから、何とも思てなかた。ママとお父さんは再婚で、私はママの連れ子で、お兄ちんはお父さんの連れ子だた。お兄ちんはたぶん悪意で言てたんだろうけど、私は何とも思てなかた。お兄ちんは私のお兄ちんじないけど、お兄ちて呼びなさいて言われてたからお兄ちて呼んでたし、私はお兄ちんのことが好きで、いつも後ろをついて歩いていた。少し大きくなたら、うちのこういう事情て結構特殊なんだてわかて、それから、お兄ちんがそう言うのて私のことが嫌いだからなんじない? て思てちと傷ついた。
 だからかな、廃工場でかくれんぼした時、冷蔵庫に入たのは。当たりのホームランバーみたいな、お兄ちんの大事なものになりたかたのかもしれない。
 あ、やぱり違う。たぶん隠れるのにちうどよさそうて思ただけだ。思い出て、後から変なように補正されるよね。たぶん深い意味はなくて浅はかだただけだ。お兄ちんは全然見つけてくれなくて、飽きちたから出たくなたんだけど冷蔵庫の扉が開けられなくなて、暑くてしかたなくて、それから先のことはよく覚えてないんだけど、私はお兄ちんが私のことを見つけてくれなかたのが悲しかたから文句を言おうと思て、夜、お兄ちんの部屋へ行た。
 お兄ちんは悲鳴を上げた。私が見えると言て泣き出した。それを聞いてママが狂たようにお兄ちんを殴た。お兄ちんは鼻血を出した。恐ろしい光景だた。子供だたから、どうしてそうなてしまたのか全然わからなかた。悲しくて、やぱり泣いた。誰も聞いてなかたけど。自分が死んだんだて気付くのに結構かかて、その間、私はお兄ちんがかわいそうだと思てつきまとてしまた。それでお兄ちんがノイローゼになたんだけど、私のせいだて気付くのにもやぱり結構時間がかかた。時間が経つとわかることがいぱいあた。後悔も増えた。溶けたホームランバーを見て泣くべきじなかたし、あの日冷蔵庫に入るべきじなかたし、死んだのにお兄ちんにつきまとうべきじなかたし、お兄ちんが怪我で入院してから病院に通い詰めるんじなかた。お兄ちんにあんな女の子がいるなんて知らなかた。なんかよそよそしい雰囲気だから彼女じないんだろうな、あの子一方的につきまとてるだけなんじない? とずと思てたけど、レモンウターを冷蔵庫に入れる姿を見て、ああ、違うんだて思た。一回あのペトボトルにいたずらでもしてやろうかと思たんだけど、私、霊になてから何故か冷蔵庫だけは触れないんだ。
 でもしうがないよね、私、死人だし。生きてる人には勝てない。そう思たら悲しくて仕方なくなくて。あーあ、病院になんて来なきよかた。
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