第8回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
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アルキメガデテル斯く語りき
投稿時刻 : 2013.08.18 12:36
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アルキメガデテル斯く語りき
太友 豪


 これは、金魚の口から浮き上がた泡が、水面ではじけたときに聞こえてきた独り言であります。

 いつ生まれたものか、はきりとはわからない。ただ穏やかで温かい水の中で何匹かの仲間達と一緒にまろび出たことは何となく覚えている。個性というものは生まれてすぐに現れるもので、卵からするりと上手に抜け出るものもいる一方で、いつまでも帽子のようにからの一部を頭の上に乗せているものもあた。残念ながら、わたしはどちらかといえば後者の方であた。
 この世に生まれ出でたばかりの頃のわたしには、ものを食べるための口というものがなかた。口であるはずの場所についているのは、呼吸をするためえらに水を送る管といた案配だ。
 天の配剤というべきか。食べるための口のない代わり、わたしのおなかのあたりにじんわりと暖かい袋のようなものがついていた。その中身を栄養として体を作り上げていた。時間という感覚もなく何となくじとしているうちに気がつけば自分の意思でぱくぱくと開閉できる口ができあがていた。
 次第にはきりと周囲を認識できるようになていると、驚愕すべき事実がわかてきた。わたしの兄弟の中で比較的早く卵から生まれ出でた、体の大きな兄とも呼ぶべき存在が、まだ弱々しい兄弟達を食ているのだ。
 恐ろしいことだ。生きている以上、自分以外の命を盗まなくては生きていけない。動物だろうと植物だろうと。それでも、兄弟を殺して食うなどと、なんと浅ましい。冷血、畜生道などというが、わたしのような魚の仲間はかくも深い業をおわされている。悲しい悲しい。次に生まれ変わたら素数ゼミになりたい。
 すくなくとも自分の兄弟に食い殺されないよう、逃げ回りながらも、わたしは無数のちいさな命を丸呑みし、丸ごと消化してわたしの命をつないだ。あ、つらかたなあ。
 わたしがあまりにも周囲を警戒して目玉をきろきろと動かしていたせいなのか。いつの間にかわたしの目は丸みを帯びてきた体から左右にぽんと飛び出てしまた。
 そう、気がつけばわたしの体はすかり大きくなて、ほかの兄弟と比べても見劣りがしないようになていたのだ。わたしは少しだけ誇らしい気持ちもあて、水をかき分けて悠々と進んでいた。
 そこを、湿ていて柔らかな何かに捕また。そうして、こうしてこの鉢の中にきたというわけだ。
 ああ、そうだ。そろそろ食事の時間だと思うのだけれど、そこのところ君はどう思う?
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