てきすとぽい
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第8回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
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いちねん金魚
(
まな
)
投稿時刻 : 2013.08.17 18:25
字数 : 1000
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いちねん金魚
まな
今年も暑いなあ、暑いなあ、と思
っ
ているうちに、ベランダの水槽で金魚が浮いていた。
「うそでし
ょ
」
キ
ッ
チンから出て来た妻が僕の肩に手をかけ、頭の上から覗き込んだ。
「あ、ホントだ、茹であが
っ
ち
ゃ
っ
たのかな?」
女性というのは、ときどきドキ
ッ
とするような残酷な言葉を吐く。
「茹であが
っ
たとか、ひどくないか」
これでも、金魚すくいで僕が救
っ
てや
っ
た金魚なのだ。
「何言
っ
てんの、エサや
っ
てたのも、水換えてるのも全部私じ
ゃ
ん。でもさ、どうしようもないじ
ゃ
ん、暑すぎるもん、ベランダの金魚にエアコンは付けられないし、日陰においてこれじ
ゃ
あ、、、も
っ
と、もー
っ
と大きな水槽なら、そう温度が上がる事も無いと思うけど、水換えるの大変にな
っ
ち
ゃ
うしね。」
ぷかー
っ
とゆらゆら浮いている金魚を見つめて、妻に聞く、
「で、どうする、これ?マンシ
ョ
ンじ
ゃ
埋めるところが無いし、公園まで行こうか?」
面倒だが、仕方ない。金魚の金ち
ゃ
ん(今名付けたのだが)のために重い腰を上げようと覚悟したが、
「テ
ィ
ッ
シ
ュ
でくるんでトイレに流すわ。」
ひ、非情だろう、おまえ、そり
ゃ
ないぜ、と、顔に出ていたのを察したのか、
「えー
みんなや
っ
てるよー
、生ゴミに入れるとすぐに臭くなるんだもん、生ゴミ、今朝収集しち
ゃ
っ
たし。」
あ、そう、臭くなるの、
っ
て、昨日まで元気だ
っ
たんだぜ、エアコンの効いた部屋から、ベランダの窓越しに、ゆらゆら泳いで
ぇ
。金ち
ゃ
〜
ん。
夕方、買い物に出かけると、駅の近くの小さな神社で夏祭りをや
っ
ていた。
「あ、金魚すくい」
そう言
っ
て妻の顔をチラ
っ
と見ると
「水槽、空いち
ゃ
っ
たね」
そう言
っ
て屋台の明かりに照らされた妻の横顔は、無表情で何を考えているのかよくわからなか
っ
たが、
「去年、ここですく
っ
た金魚だ
っ
たのにね。」
と言
っ
たのを聞いて、自分がどこであの金魚をと
っ
てきたのかす
っ
かり忘れている事に気付いた。
さらに妻が続けて言
っ
た。
「水槽売
っ
てる店がなかなか無くてさ、スー
パー
何件もハシゴして、ペ
ッ
トコー
ナー
にあ
っ
た一番大きな水槽を買
っ
たのに、死んじ
ゃ
うんだもん。冬は乗り切
っ
たのにな
ぁ
。」
僕は、自分が何も覚えていないことをち
ょ
っ
と反省した。
ダンナが無責任に連れ帰
っ
た金魚を、それなりに大事にしていたのだ、彼女は。
「今年も救
っ
ていいかな?」
恐る恐る妻に尋ねる。
「いいよ、死んだ時トイレに流しても文句言わないなら。」
妻が財布から500円を出しながら言
っ
た。
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