第8回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
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投稿時刻 : 2013.08.17 20:27 最終更新 : 2013.08.17 21:26
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- 2013/08/17 21:26:57
- 2013/08/17 20:27:07
御祭り金魚の里帰り
晴海まどか@「ギソウクラブ」発売中


「金魚がいる」
 いつの間にか、彼女が隣に立ていました。神社の参道に立ち並ぶ屋台の中に金魚すくいがあるのかと思いましたが、彼女が指さしたのはその屋台街の上でした。
 日が暮れて辺りはすかり暗くなりました。いつもなら肉眼でもはきりと見える夏の大三角形が、提灯や裸電球が煌々としている祭りの中ではよく見えません。夜になると近づいてくるはずの宇宙が、ほんの少し遠のいた感じがします。行き交う人のにぎやかさで空気は熱を含み、僕の額からは汗が流れました。
「空に金魚がいるの?」
 訊き返すと、彼女は首をのけぞらせて空を見上げたまま頷きました。ふわふわした白いレースのような帯が、ゆらと揺れます。彼女の浴衣の模様は何かに似ていたのですが、どうしても思い出せません。
「すごく、いぱいいる」
 何かを数えるように頭をゆらゆらさせた彼女に訊いてみます。出目金はいる? あまりいない、出目金は高いから。高いといないの?
「あそこにいるの、死んじた金魚すくいの金魚だから」
 僕も彼女と同じように、頭をかくんと後ろにやて空を見上げました。
「マグロの群れみたいに、ぐるぐる泳いでる」
「マグロの群れ、見たことあるの?」
「テレビで見た。知てる? マグロは、泳ぎ続けないと窒息して死んじうんだよ」
 それはいい。何がいいの?
「自分で好きなときに死ねるから」
 彼女はゆくりと瞬きしました。大きな目に祭りの明かりが映り込みます。
「私にはよくわからないな」
 首が痛くなてきて、僕は頭を戻しました。彼女は飽きずに夜空を見つめ続けています。
「死んじた金魚が、なんでそこで泳いでいるのかな?」
「お盆だから」
 どうせお盆に化けて出るなら、飼い主のところに行けばいいのに。
「金魚すくいの金魚はすぐに死んじうから、飼い主を覚えてないんだよ」
「そうなの?」
 彼女はその顔を初めて僕に向けました。その頬がぷと膨れます。
「君がそう言たのに」
「そうだたね」
 金魚すくいの金魚は弱い、と言われることがありますが、実際は金魚をすくた側の問題で死んでしまうことが多いのです。金魚が入た袋を長時間持ち歩いたり、カルキの抜けていない水道水にそのまま入れてしまたり。
「でも、私は覚えてる。君が大事に私を飼てくれたから、ここに来たよ」
 彼女の体が、しと小さくなりました。またね、と呟いた小さな金魚は、祭りの明かりに溶けるように輝き、夏の夜空に消えていきました。
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