おはかまいり
高校大学とバイトに明け暮れていたものだから、社会人にな
ってぽんと与えられた盆休みには心がおどった。
とはいえレジャー施設はどこも混んでるみたいだし、そもそもこの歳になって家族で行くには気が引けるし、レンタルDVDも気になる作品はほとんど貸し出し中だったし、家にいるだけなのも普段の休日と変わらない。
盛り上がっているテレビの画面をいまひとつ自分の生活に取り込めないでいる。
結局何をしようか決めきれずに休み前の最後の出勤を終えて、家に帰ると兄がいた。
「よう。明日からおばあちゃんトコ行かない?」
プールに行かない?と言い出すように、ひょいと食卓から言ってのける。
就職を機に家を出てからも月に一度のペースで、ずっといるかのように違和感なく兄は帰っている。
大学受験の年に行ったきりで、父親の帰省にはしばらく付き合っていなかった。
その父が転んで足をいためたから代わりに兄弟が、ということらしい。
夕食後に母親にガソリン代と手土産を持たされてしまって、あの兄の疑問形はなんだったんだと思いつつ荷造りをした。
降るか降らないかのなんとも言えない天気をくぐり抜けて、昼過ぎには山を少しのぼった祖母の家に着いた。
太陽が今から頑張るぞとばかりに照り付けて、セミもまだまだうるさい。
祖母は思いのほか変わっておらず、にこやかに麦茶と饅頭を出してくれた。
明日はお墓の掃除をしに行くようで、線香なども買い揃えてあるという。
父の母であるはずなのに偶然にも母と同じ行動をしていて、この歳になって両親とその周りの縁を感じる。
手土産を忘れて車へ戻った時に、なつかしい水槽を見つけた。
石造りのちょっとしたもので、それでも夏祭りでとった金魚を放すには充分だった。
お盆に離して年の瀬にまた来る頃には忘れていたから、金魚の消息は一度も知ったことがない。
今更聞くのもきまずい気がして、結局夕飯でもお墓参りの時にも聞けなかった。
藻がはったりしてはいないから手入れはされているみたいだ。
ならば余計に祖母が金魚の世話をしてくれていたことが思い浮かばれる。
結局祖母との時間はそつなくこなされて、あとは兄と運転席を譲り合いながら帰るだけだ。
お互いどこかぼんやりとした顔をしながら高速を走っていると、ふいに兄が口を開いた。
「金魚、水槽の脇にお墓があるんだって」
だからまた行こうぜ、と助手席に座りなおす。
相変わらず降りそうで降らない夕暮れの空に、それらしい形が見えた。