てきすとぽい
X
(Twitter)
で
ログイン
X
で
シェア
第10回 てきすとぽい杯〈平日開催〉
〔
1
〕
…
〔
10
〕
〔
11
〕
«
〔 作品12 〕
»
〔
13
〕
〔
14
〕
…
〔
16
〕
失われた古代文明 ※遺伝子組み換えでない
(
゚.+° ゚+.゚ *+:。.。 。.
)
投稿時刻 : 2013.10.18 23:43
字数 : 1898
1
2
3
4
5
投票しない
感想:2
ログインして投票
失われた古代文明 ※遺伝子組み換えでない
゚.+° ゚+.゚ *+:。.。 。.
じいち
ゃ
んは偏屈で愚痴
っ
ぽくて嫌いだ。じいち
ゃ
んはもう仕事をリタイアしたから毎日暇を持て余していて、日がな一日部屋にこも
っ
ている。あまり閉じこも
っ
てばかりいてはよくないからと、ママが時折部屋から出るように言
っ
て、そうすると渋々部屋から出てきて、窓際においてある揺り椅子に腰を下ろす。
「最近の若者は」
と、じいち
ゃ
んは言う。
「品がなくてよくない。勉強もせず外を駆け回る。わからないことがあると自分で調べる前に誰かに聞く。考える前に行動を起こしては失敗する。そんなことだから、パソコンも使えず、情報の集め方も下手糞なんだ」
そんなことを言いながら揺り椅子を揺らして、携帯端末を起動し、架空の世界でモンスター
狩りをしている。僕はなんだか嫌な気分になる。そもそもじいち
ゃ
んが座
っ
ている揺り椅子は僕が作
っ
たものなのに。それは去年の夏休みの自由研究で作
っ
たものだ
っ
た。3Dプリンター
でフ
ィ
ルム状に出力したビニル素材を沢山重ね合わせて、弾力性のある樹脂と組み合わせて作
っ
たものだ。作り始める前、リビングで手書きの設計図を書いている僕の手元を覗き込んで、じいち
ゃ
んが渋い顔をしたのを覚えている。
「そんな素材では、すわり心地もよくないし強度も足りない。ほら、見てみろ」
そう言
っ
て見せられた端末では、僕の椅子作りをシミ
ュ
レー
トした結果が表示されていた。
「別にいいんだよ、自由研究なんだし、好きにやれ
っ
て先生が言
っ
たから」
そう言
っ
て夏休みい
っ
ぱいを使
っ
て思うままに作
っ
た揺り椅子は、案外座り心地も強度も丁度いい感じに出来た。先生にも褒められて、僕は鼻高々だ
っ
た。
どうだ、ざまみろ、頭で
っ
かち!
そんな気持ちでじいち
ゃ
んにそれを報告したら、じいち
ゃ
んは少し驚いたような表情をしたけど、褒めてはくれなか
っ
た。そのくせ、僕の揺り椅子を独占している。
インター
ネ
ッ
トには沢山の有益な情報が溢れていて、それを活用しまし
ょ
うと学校も大人たちも言うけれど、僕はそんなのより、何も知らない子供だけで好き勝手に非効率なことをするのが好きだ。放課後、大人たちに隠れて、友達のタロウと色んなことを、不毛なことを語り合う。
「腐敗と発酵の違い
っ
て何?」
とその日、タロウは唐突に言い出した。
「なんだよ突然。似たようなもんなんじ
ゃ
ないの」
「違いはない
っ
てこと?」
「いや
……
腐敗は悪いもので、発酵はいいものなんじ
ゃ
ないの。ほら、お酒とか出来たり」
「じ
ゃ
あ良いと悪いの違い
っ
て何なんだよ」
「えー
と
……
腐敗は臭くなるから悪いんじ
ゃ
ね?」
「発酵は臭くならないのか? 納豆とか臭いんじ
ゃ
ね?」
「お前、納豆のにおいかいだことあるのかよ」
「
……
」
納豆というのは、半世紀前に絶滅した東洋の島国の主食だ
っ
たといわれる食べ物で、大豆を発酵させた臭い食べ物だ
っ
たというが、僕たちは一度も見たことがなか
っ
た。
「作
っ
てみようぜ」
「え
っ
」
「大豆を納豆菌で発酵させるだけだろ。や
っ
てみようぜ」
僕らは好奇心から、納豆という食べ物を作
っ
てみることにした。
こういう時は流石に、インター
ネ
ッ
トで情報を集めなければならなか
っ
た。幸い、絶滅する前にニホン人たちの多くがブログなどに納豆の作り方を記していた。僕らは通販でジ
ャ
ー
を買い、培養液を買い、バイオの会社に菌を特注し、大豆の苗を輸入し、それから色々な道具や材料を買い揃えた。
自宅で発酵を始めたとき、じいち
ゃ
んはまた渋い顔をした。
「ほんとうに、最近のわかものは考えが足りなくていかん。納豆のにおいを嗅いでみたいのなら、インター
ネ
ッ
トで臭気のサンプルを提供しているサイトがあるのに、何故こんな無駄なことをするんだ」
うるさいなあと思いながら僕は納豆作りを続けた。培養が進むと家中に培養液の特有な不快臭が充満してパパとママも嫌な顔をした。それから大量の納豆菌を採れたての大豆につけて発酵させた。今度は培養液とは違う、刺激の強い、むせ返るような臭いが家に充満した。じいち
ゃ
んは激怒した。
「イマドキの若者は本当にどうかしている。ゆとり教育は即廃止すべきだ。まるでこんな、古代人のような野蛮なことをしお
っ
て!」
そう言うとお気に入りの端末を持
っ
て、じいち
ゃ
んは家を出て行
っ
てしま
っ
た。
僕は、生まれて初めて嗅いだ納豆の臭いにかなりのダメー
ジを受けていて、結構後悔していたし、ち
ょ
っ
とはじいち
ゃ
んの警告を聞けばよか
っ
たなあ、悪か
っ
たなあと思
っ
た。じいち
ゃ
んが家を出て行
っ
てしまうと、あれだけうざく思
っ
ていたのに急に寂しくな
っ
た。でもそれもこれも、じいち
ゃ
んみたいにインター
ネ
ッ
トでなんでもかんでも調べて済ます生活をしていたら、わからずじまいだ
っ
たような気がするのだ。
←
前の作品へ
次の作品へ
→
1
2
3
4
5
投票しない
感想:2
ログインして投票