第10回 てきすとぽい杯〈平日開催〉
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失われた古代文明 ※遺伝子組み換えでない
投稿時刻 : 2013.10.18 23:43
字数 : 1898
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失われた古代文明 ※遺伝子組み換えでない
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 じいちゃんは偏屈で愚痴っぽくて嫌いだ。じいちゃんはもう仕事をリタイアしたから毎日暇を持て余していて、日がな一日部屋にこもっている。あまり閉じこもってばかりいてはよくないからと、ママが時折部屋から出るように言って、そうすると渋々部屋から出てきて、窓際においてある揺り椅子に腰を下ろす。
「最近の若者は」
 と、じいちゃんは言う。
「品がなくてよくない。勉強もせず外を駆け回る。わからないことがあると自分で調べる前に誰かに聞く。考える前に行動を起こしては失敗する。そんなことだから、パソコンも使えず、情報の集め方も下手糞なんだ」
 そんなことを言いながら揺り椅子を揺らして、携帯端末を起動し、架空の世界でモンスター狩りをしている。僕はなんだか嫌な気分になる。そもそもじいちゃんが座っている揺り椅子は僕が作ったものなのに。それは去年の夏休みの自由研究で作ったものだった。3Dプリンターでフィルム状に出力したビニル素材を沢山重ね合わせて、弾力性のある樹脂と組み合わせて作ったものだ。作り始める前、リビングで手書きの設計図を書いている僕の手元を覗き込んで、じいちゃんが渋い顔をしたのを覚えている。
「そんな素材では、すわり心地もよくないし強度も足りない。ほら、見てみろ」
 そう言って見せられた端末では、僕の椅子作りをシミュレートした結果が表示されていた。
「別にいいんだよ、自由研究なんだし、好きにやれって先生が言ったから」
 そう言って夏休みいっぱいを使って思うままに作った揺り椅子は、案外座り心地も強度も丁度いい感じに出来た。先生にも褒められて、僕は鼻高々だった。
 どうだ、ざまみろ、頭でっかち!
 そんな気持ちでじいちゃんにそれを報告したら、じいちゃんは少し驚いたような表情をしたけど、褒めてはくれなかった。そのくせ、僕の揺り椅子を独占している。
 インターネットには沢山の有益な情報が溢れていて、それを活用しましょうと学校も大人たちも言うけれど、僕はそんなのより、何も知らない子供だけで好き勝手に非効率なことをするのが好きだ。放課後、大人たちに隠れて、友達のタロウと色んなことを、不毛なことを語り合う。
「腐敗と発酵の違いって何?」
 とその日、タロウは唐突に言い出した。
「なんだよ突然。似たようなもんなんじゃないの」
「違いはないってこと?」
「いや……腐敗は悪いもので、発酵はいいものなんじゃないの。ほら、お酒とか出来たり」
「じゃあ良いと悪いの違いって何なんだよ」
「えーと……腐敗は臭くなるから悪いんじゃね?」
「発酵は臭くならないのか? 納豆とか臭いんじゃね?」
「お前、納豆のにおいかいだことあるのかよ」
「……」
 納豆というのは、半世紀前に絶滅した東洋の島国の主食だったといわれる食べ物で、大豆を発酵させた臭い食べ物だったというが、僕たちは一度も見たことがなかった。
「作ってみようぜ」
「えっ」
「大豆を納豆菌で発酵させるだけだろ。やってみようぜ」
 僕らは好奇心から、納豆という食べ物を作ってみることにした。
 こういう時は流石に、インターネットで情報を集めなければならなかった。幸い、絶滅する前にニホン人たちの多くがブログなどに納豆の作り方を記していた。僕らは通販でジャーを買い、培養液を買い、バイオの会社に菌を特注し、大豆の苗を輸入し、それから色々な道具や材料を買い揃えた。
 自宅で発酵を始めたとき、じいちゃんはまた渋い顔をした。
「ほんとうに、最近のわかものは考えが足りなくていかん。納豆のにおいを嗅いでみたいのなら、インターネットで臭気のサンプルを提供しているサイトがあるのに、何故こんな無駄なことをするんだ」
 うるさいなあと思いながら僕は納豆作りを続けた。培養が進むと家中に培養液の特有な不快臭が充満してパパとママも嫌な顔をした。それから大量の納豆菌を採れたての大豆につけて発酵させた。今度は培養液とは違う、刺激の強い、むせ返るような臭いが家に充満した。じいちゃんは激怒した。
「イマドキの若者は本当にどうかしている。ゆとり教育は即廃止すべきだ。まるでこんな、古代人のような野蛮なことをしおって!」
 そう言うとお気に入りの端末を持って、じいちゃんは家を出て行ってしまった。
 僕は、生まれて初めて嗅いだ納豆の臭いにかなりのダメージを受けていて、結構後悔していたし、ちょっとはじいちゃんの警告を聞けばよかったなあ、悪かったなあと思った。じいちゃんが家を出て行ってしまうと、あれだけうざく思っていたのに急に寂しくなった。でもそれもこれも、じいちゃんみたいにインターネットでなんでもかんでも調べて済ます生活をしていたら、わからずじまいだったような気がするのだ。
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