てきすとぽい
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ぼくとフィルムと発酵と
(
豆ヒヨコ
)
投稿時刻 : 2013.10.18 23:44
最終更新 : 2013.10.18 23:48
字数 : 1681
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2013/10/18 23:48:05
-
2013/10/18 23:44:45
ぼくとフィルムと発酵と
豆ヒヨコ
「また失敗だ」
ぼくは真
っ
暗な気持ちでつぶやく。
「明らかに向いてないんだ」
フ
ィ
ルムは瑠璃色の目をちらりと上げた。しかし何も言わず、ぼくの手のひらに包帯を巻く作業に戻る。
先ほどの狩りは熾烈をきわめた。丸太ほどに太い爬虫類の前脚が、ぼくを殴ろうとしていた。腰の万能ナイフを取り出そうとして、ぼくは親指と人差し指の間をザ
ッ
クリ切
っ
てしま
っ
た。鮮血が散
っ
た。今度こそ死んだと思
っ
た。しかし意識は遠のかなか
っ
た。もちろん、フ
ィ
ルムの奴が衝撃波で援護射撃してくれたのだ。ドラゴンは断末魔の咆哮を上げる。真紅の鱗を、花弁のように散らしながらの
っ
しと倒れる。その地響きに足をとられ、ぼくは転んで頭を強く打つ。気絶。終了。
このたびの戦闘も、ぼくの行動とは関係なく始まり、関係なく終わ
っ
た。
「なぜ、ぼくが戦わなければならないんだ?」
真摯に尋ねたが返事はない。フ
ィ
ルムはいつだ
っ
て肩をすくめるだけだ。
ある満月の深夜。いきなりパジ
ャ
マのまま異空間へ連れ出され、殺戮にあふれるパラレルワー
ルドへと降り立
っ
た。伸びた綿菓子のような髭を持つおじいさんに「元の世界に戻りたくばモンスター
狩りを通じてデンドルダー
トを倒し静寂の扉をひらくのじ
ゃ
」と言い渡され、え
っ
意味わかんないと思
っ
た瞬間モンスター
の闊歩する荒野へと放り出された。やばい死ぬとキ
ョ
ドりながら、そのへんを歩いていた小人に声をかけてみると親切にも同行してくれることにな
っ
た。小人の名はソングゾ・ベリ=フ
ィ
ルムといい(多分)、この荒廃した世界を牛耳るデンドルダー
トを倒すためなら何でもすると力説した。
「ごめん、や
っ
ぱ無理。ぼく転職するわ。出来るんだろ? こないだ会
っ
た道具屋が言
っ
てたよな」
鋭い一瞥をくれるだけで、やはりフ
ィ
ルムは何も言わない。
もうデンドルダー
トを倒すとかそういうのは、一切諦めた。ぼくは別に元の世界へ戻らなくても構わない。構わない
っ
ていうのは嘘か、もちろん帰りたいけど、ぼくの能力じ
ゃ
正直無理だ。作戦変更だ、強いやつのサポー
トをする。こないだの行商は、戦士ほど権威はないが、戦闘にかかわる職は若干あると言
っ
ていた。そう、恐るべき能力を持
っ
た小人、フ
ィ
ルムをサポー
トできるジ
ョ
ブへチ
ェ
ンジするのだ。
「転職なんて敗者のすることだ。寄生虫だ」
ぽつりとフ
ィ
ルムは言
っ
た。低い声で、威厳に満ちていた。ぼくは何となく凹む。フ
ィ
ルムが真摯にぼくを導いてきてくれたことは良く分か
っ
ていた。
「でもさフ
ィ
ルム、このままじ
ゃ
ぼく、いつか死ぬよ。そしたら終わりだよ」
「死ぬのが怖いのか」
「怖い。でも、なんていうか多分、ぼくは殺し続けることが一番怖い。どうしても慣れない」
柴犬のように黒く濡れたフ
ィ
ルムの鼻は、不満げにふんふんとうごめいた。
あれから二年経
っ
た。ぼくは戦士フ
ィ
ルムの補佐をすべく首都で修行を重ね、『干物士』の資格を得てふたたび合流した。最初は照れくさく他人行儀になりがちだ
っ
たが、戦闘に入
っ
た瞬間、関係は瞬時に巻き戻された。ひとつ違うのは、ぼくが担うべき役割をし
っ
かりわきまえているということだ。
フ
ィ
ルムはさらに強くな
っ
ていた。5メー
トル強もある海獣を一撃で叩きき
っ
た。内心驚きながらも、ぼくは落ち着いて獲物の処理を行
っ
た。
ぼくは孔雀の羽を手にする。シ
ャ
チに似た海獣の亡がらに、強く扇いで風を送る。
ヌメヌメと湿
っ
たやわらかな皮膚は、一気に皺をよせ干上が
っ
ていく。生々しい潮のかおりは、かつおぶしに近い乾いた粉
っ
ぽい匂いへと変化する。みるみる全体に小さくなり、最後は薄
っ
ぺらい影のように軽く、コンパクトに縮んで地面に転が
っ
た。
はじめて見せる仕事ぶりに、彼は満足しただろうか? 表情を盗み見た。眉間にしわを寄せて見守
っ
ていたフ
ィ
ルムは、ほうと口をすぼめて海獣に触れる。すこし笑
っ
た。小さな鼻がひくひくと蠢いた。
「ずいぶん小さくなるもんだなあ」
「運びやすくなるでし
ょ
」
フ
ィ
ルムは鼻の下をこすり、ぼくの手のひらをぽんぽんと叩いた。そして言
っ
た。
「お前、いい感じに発酵したんだな。俺も発酵した。一度死んで熟したんだ。俺たちはまた仲間だ。おかえり」
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