てきすとぽい
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第10回 てきすとぽい杯〈平日開催〉
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プラントハントランド
(
犬子蓮木
)
投稿時刻 : 2013.10.18 23:37
字数 : 2835
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プラントハントランド
犬子蓮木
世の中
っ
ていろいろだ。
人間もいるし、犬もいるし、桜もいるし、クワガタもいる。ピー
ター
パンはいないけど、シー
ラカンスはいるらしい。そんな世界には歓迎すべきうれしいこともあれば、悲しむべきイヤなことだ
っ
てある。
ここはレバリー
ランド。
とある国が、ず
っ
と秘密にしてきた閉ざされた島で、僕はこの島に狩りに来ていた。何を狩る
っ
て? 何だと思う? 狐? そんなかわいい動物を狩
っ
たりはしない。
僕が狩るものはうつくしい花。
僕はプラントハンター
だ。
植物を主に扱
っ
ているけど、メインはめずらしい花の採集。
まだ見ぬすばらしい花を手に入れるために、ここにや
っ
てきたというわけ。
「おい、はやくこいよー
。ミギルカ」
オウムのカレハが僕の前をぐるぐると飛びながら言
っ
た。
「そ
っ
ちは飛べるから
っ
てずるいんだよ」僕は言い返す。
「鳥が飛べて何がずるい」
「飛べない鳥だ
っ
ているし、動物として考えれば飛べないほうが多いだろ」
「理屈がおかしい。いいよ、じ
ゃ
あ飛ばないから」
カレハは、一旦、前進するとUター
ンして僕のほうに猛スピー
ドで突撃してきた。
「ひ
ぃ
」
っ
と目を瞑
っ
た瞬間、バサ
っ
と大きな音がして、僕は肩におもみを感じる。カレハが僕の肩にとま
っ
たのだ。
「重い」
「飛ぶな
っ
ていうから、し
ょ
うがない」
「歩けばいいじ
ゃ
ん」
「ミギルカみたいに立派に走れるような、ずるい足はついてないんだよ」
「僕が走れたらずるいのかよ」
「さ
っ
き、誰かさんがそんなこと言
っ
てたよ」
「誰だよ、そいつ」
「さあね」
カレハは僕の頭に飛び乗
っ
て、浮き上がるとバサバサと羽ばたいてからまた肩にとま
っ
た。
「どこかの止まり木だ
っ
たかも」
「木と会話できるなんて変な鳥だな」
「ミギルカに言われたくない」
僕とカレハは、島の森の奥へと進む。この島に人間は住んでいない。許可をもら
っ
て船で送
っ
てもらいはしたけど、その人も予定の日に迎えに来ることにな
っ
ているから、今はもういない。だから野宿して、目的の花を見つけるまで僕とカレハだけでどうにかしなくち
ゃ
いけないんだ。
ある程度、島を進んだところで、日が落ちたので、今日はここで留まることにした。今のところはまだ時間があるので、無理に夜、進む必要はない。それにカレハは鳥目だし。
「今日のごはんは何?」カレハが聞く。
この島は南のほうにあるため、たき火が必要なほど寒くはない。テントをは
っ
て、その外側にランプをぶら下げている。森の中で球体の光が広がるようにゆれていて、僕とカレハはそんな結界に守られるような心地で夕食の準備をしていた。
「カレー
」
「またか」
「他になにがある
っ
ていうの」
「ないけどさ、なんというかもうち
ょ
っ
と食べやすいものがいいな」
カレハがとことこ歩いて、僕の横の鍋の近くに寄
っ
た。
「くちばし
っ
てはずしたり、その羽でスプー
ンも
っ
たりできないの?」
「夕食、地面にこぼしたいの?」
「なべ、あついよ?」
「じ
ゃ
あ、木の枝落とそ
っ
か」
「ごめんなさい」
僕はじぶんの皿にカレー
をよそ
っ
て、それからカレハ用の器にもよそ
っ
た。食べにくそうなので、スプー
ンですく
っ
てあげる。食べにくいとかの問題よりもオウムがカレー
を食べて大丈夫なのかはち
ょ
っ
とばかし気になるけど、カレハ普通のオウムじ
ゃ
ないし、鶏肉もいれてないのでまあいいんだろう。
夕食を終えて僕とカレハはテントの中で布団にくるま
っ
ていた。明日はどこまで進もうか、そんなことをマ
ッ
プを見ながら話していると、ある気配を感じた。
花の気配。
それも
……
。
「逃げるぞ!」
僕が叫ぶより早く、カレハはテントから飛び去
っ
た。薄情なんじ
ゃ
ない、囮になるためだ。僕がテントから出るとトラがカレハを捕まえようと必死にな
っ
て頭上に手をのばしていた。
フラワー
タイガー
だ。
でも、お目当ての白い奴じ
ゃ
ないし、咲いてない。
黄色と黒の縞模様を持
っ
たトラの頭にはピンクのつぼみがゆらゆらと揺れていた。
よくわからない明かりをみつけて、僕らのテントを襲いに来たのだろう。
「こいつどうする?」カレハがくるくると回りながら言う。「狩る?」
「まあ、練習にはなるから殺さない程度で」
「了解」
カレハが回る範囲をひろげる。走らせて、疲れさせて、バター
にな
っ
たりはしないけど、いらだたせる分には効果的。僕はテントに戻
っ
て鞄をひ
っ
ぱりだした。中からペンの形の針を取り出す。さき
っ
ぽから少しだけ出ている針には麻酔が塗
っ
てあるのだ。このトラが簡単に失神していまうような強力なものが。
「ミギルカ!」
カレハが飛ぶ方向を変えて僕のほうへと飛んでくる。一直線にスピー
ドをあげて突撃してきたカレハは、僕の顔の前で大きく羽を広げ、そして急上昇する。
目を閉じたりはしない。
それが信頼という奴。
遊びじ
ゃ
なければ、
カレハがぶつか
っ
たりはしない。
消えた翼の影からはフラワー
タイガー
が現れた。
向こうからしてみてもいきなり僕が現れたようにみえただろう。
僕はふみこみ、右手に握りしめたペン針をトラの額めがけて突き刺した。
トラの振り上げた鋭い爪がカウンター
気味に僕に振り下ろされる。
トラは眠るだろう。
麻酔で。
だけどその腕までが急にとま
っ
たりはしない。
僕の、
すぐ、
目の、
前に、
振り下ろされるトラの爪を僕は全身をふるわせて力をこめた左腕で受け止めた。盛大に鈍い音。だけど僕はふきとばされたりはしない。足から根を伸ばし地面を掴んでいた。
トラが眠りにつき崩れ落ちる。
僕は埃を払
っ
て鞄からカメラを取りだした。一応、記念にフ
ィ
ルムにおさめておこうと。
僕とカレハは植物生物だ
っ
た。とある研究所で造られたほんとうは存在しないはずの生き物。僕は身体が木でできていて、成長させたり、枯らして軽くしたりすることができる。
カレハも枯れ木を翼の骨の代わりにしている。
世の中にはそうい
っ
た特別な奴らが隠された状態でそこら中に存在している。このトラや、僕らみたいに、逃げ出して、好き勝手、生きていたりね。
だから僕とカレハは、そんなめずらしい奴らを狩りに来たのだ。写真に撮
っ
て世間に公開するために。
少し離れたところに失神したトラを置き、近くに匂い花を置いておく。目を覚ましたトラは、この花から香る金属が発酵したような匂いを覚えて、僕らのようなテントを襲わなくなるという仕組みだ。
「さて、落ち着いたし寝ようか」僕はカレハに言う。
「ミギルカ大丈夫?」
「なに、心配してくれるの?」
いくら僕が植物の人間とはいえ、あまりにケガをすれば倒れたりはする。だからカレハ心配してくれているのかなと思
っ
た。でも、違
っ
た。
「そり
ゃ
心配だよ、咲いているホワイトフラワー
タイガー
は情報によると普通の四倍ぐらい大きいらしいし。ち
ゃ
んとできるの? ミギルカがやられたら逃げるよ」
「そ
っ
ちかよ!」
「当たり前だろ!」
僕は木の蔦のようにした腕を伸ばして狭いテントの中で逃げ回るカレハをつかまえようと追い回した。
「待てこら」
「いやだね」
「明日の朝はチキンカレー
にしてやる」
「またカレー
かよ!」
「そこかよ!」
夜は更けていき、どこかに大きな遠吠えが響いた。
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