第11回 てきすとぽい杯〈お題合案〉
〔 作品1 〕» 2  15 
電子レンジ
投稿時刻 : 2013.11.16 23:05 最終更新 : 2013.11.16 23:09
字数 : 2033
5
投票しない
更新履歴
- 2013/11/16 23:09:10
- 2013/11/16 23:05:24
電子レンジ
なんじや・それ太郎


「電子レンジ使いたいから、エアコン消して欲しいんだけど」
 妻がパジマ姿のまま現れて、そろそろベドから這い出そうとしていた私に言た。
「さきつけたばかりなのに……」と私は渋る。枕元にあたリモコンでエアコンの暖房を入れたばかりだ。部屋がある程度暖かくなたところで布団から出ようという魂胆だた。それを電子レンジごときのために切らなければならないなんて納得できない。
「エアコンはな、起動する時に一番電気代がかかるんだ。一度、スイチを入れたら滅多なことでは消しちいけない」
 私が強く抗議をすると、妻は「ああ、そう」と大人しく引き下がた。
 さて、ベドから無事に降りた私はパソコンラクの方に向かい、おもむろにPCの電源を投入した。朝はやぱりYahooのニスと天気予報からチクしなければならない。それを横目で眺めつつ、大塚さんがいつ電撃復帰をしてもいいように、TVのチンネルは「めざまし」に合わせる(首になた皆藤愛子のことは忘れよう)。気がつけば11月も半ば、外が明るくなるのも随分遅くなたじあないですか。

 と、その時、部屋の電気が一斉に消えた。パソコンもTVも蛍光灯もエアコンも何もかもだ。
「大塚さんの身に何かあたのか!」
 いやいや、大塚さんと我が家の電気がシンクロするはずもない。それに今年の訃報はアンパンマンの生みの親と島倉千代子と宇多田ヒカルの母で十分だ。大塚さんはきと完治するはずで、天皇陛下やダライ・ラマ14世もそうだけど、みんなと一緒に次の東京オリンピクの年を元気に迎えるんだ。長生き、バンザイ!
「ねえ、あなた」と妻が現れる。「ブレーカーが落ちたの。直して」
「そんなのスイチをピて上げるだけだろう」
「どのスイチ?」
「わかたよ。俺がやるよ」
 そう言いながら、私は妻を手で押しのけ、部屋を出て玄関の所にあるブレーカーのスイチまで行こうとした。途中、ふと見ると冷凍庫の扉が開いたままになている。霜の中に冷凍食品がぎちり詰め込んである。電気が通てない冷凍庫の扉を開け放しにするなんて、どんな神経をしているんだ。
 ブレーカーを元に戻すと、部屋中の家電製品が息を吹き返したかのように見えたが、私の苛立ちは収まらなかた。
「ブレーカーが落ちるとわかてて、何で電子レンジを動かしたんだ」
「40秒だから大丈夫だと思て。海軍カレーコロケ1個に要する時間」
「40秒なら大丈夫? 何を根拠にそんな馬鹿なことが言えるんだ」
「だからさきエアコンを消してて頼んだじない」
「ほほう、人のせいか? だいだいこんな寒い朝にわざわざ弁当を作らなくたていいよ。今日から社食で定食でも食う。そうしてくれ。ブレーカーも落ちなくて済むし。わかたな?」

 そうは言たものの、妻に見送られ、家を出たところで私は鞄の中を調べ、普段と変りなく弁当が入ているのを確認した。いつもこんな感じだ。妻は私が意図した方向とはまるで別な行動を取ることが多い。まるで嫌がらせのように。
 そんな弁当がうまいわけがない。結婚してもう一年が経つというのに、職場の連中は私がまだ新婚気分でいると思ているらしく、社食で弁当を広げていると「お、愛妻弁当ですね」などといちいち声をかけてくるやつがいる。今となては別に愛妻でもないし、それに毎日弁当なんだからわざわざそれを指摘することの愚かさを、もうそろそろ悟てもらいたいものである。

 家に帰ると妻がにこにこしながら待ていた。こういう時は嬉しい報告があると相場は決まている。しかしそれは本人にとての嬉しい話でしかなく、私にはどうでもいいことが大半だた。
「ねえ、見て見て」と私は部屋に誘導された。
 TVの前には小さな携帯電話が置いてある。「電子レンジを使う時はTVじなくて、これでワンセグを見てね」と妻。
 パソコンラクの前にはとくに引退させた林檎のロゴが入たノートブクが置いてある。「PCはこのバテリーがついているのを使て」と妻。
「朝の40秒だけでいいの、お願い」
「お前、俺に対して不平とか不満とか、他に言いたいこととか、ないのか?」
「え、何のこと?」
「朝、俺の言い方、ひどすぎたと思て。反省している」
「別にいいよ」
「俺がよくないよ」
 すると妻はしばらく考え込んだ様子を見せたが、すぐに笑顔を取り戻し「ねえ、今度はこち」と言て私を台所に案内した。
「じん!」と言て見せられたのが、バテリー装着の冷蔵庫(特注品?)。……そして、洗濯機。まさかと思て居間に戻ると、試作品と銘打たバテリー内蔵のエアコン。何じこり? 一体これだけの物をどうやて揃えたんだ。それにいくらするんだ、この最先端電化製品たち。ちと待て、電子レンジは今まで通りなのか。
 ああ、何かめまいがしてきた。
「ちと、これどういうことだ?」
「どういうことて」妻は満面の笑みで私に告げる。「これでもうブレーカーが落ちる心配はないわ」
← 前の作品へ
次の作品へ →
5 投票しない