大都会
初霜の降りた日、家を出た。こんな田舎にはうんざりだ
ったのだ。いつまでも時代遅れの価値観に染まり、世の中の中心から取り残されていることもわからずに、うわさと干渉しかすることのない老いたじじばばがいなか臭い物差しを押し付けてくる、こんな田舎にはうんざりだったのだ。たしかに俺は県で一番の高校には入れなかった。だがそれでなぜ、親戚の集まりがあるたびに、できの悪い孫で・・・などと言われなければならない? ようし、そんなら、進学校のやつらが将来何のやくに立つとも知れない数式を丸暗記している間に、俺は東京で一旗あげてやる! と、そんな具合で俺は豚の貯金箱を叩き割った。首から2万円がでてきた。これでどうにかなるだろう。俺は林檎のマークのついた携帯電話を握りしめて、特急にのりこむ。新宿駅には3時間ほどで辿り着いた。すごい人だった。駅のホームがいっぱいあった。改札もやたらたくさんある。意味がわからない。出口の矢印ありすぎ。出口ひとつにしとけよややこしい。なんとか建物の外に出る。三次元だ。なんで道路が幾重にも折り重なっているんだ。道路の反対側に行きたいだけなのにどこをどう進めばいいのかわからない。次元が違うのだ。呆然と立ち尽くしていると、後ろから歩いてきた人にぶつかった。
「あ、あ、あ、え、えらいすんまへん・・・」
そう言うと、その人はあからさまな舌打ちをした。
「気を付けてくださいよ」
どうみても60にはなっていそうなそのご婦人はきれいな標準語を話した。こんな歳で、まったく訛ってないなんてすげーな。そこまで考えてから、東京のじじばばは方言なんか話すわけないということに気付いて戦慄した。ここは魔界都市東京なんや・・・!
俺は東京弁アレルギーを起こして死んだ。
アーアァァー果てしないぃぃー