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第11回 てきすとぽい杯〈お題合案〉
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切る
茶屋
 投稿時刻 : 2013.11.16 23:36
 字数 : 971
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切る
茶屋


 きし。きし。きし。
 踏み出すたびに霜の砕ける音がする。
 凍りついた草葉の細胞が砕けていく。
 止また世界。死につつある世界。木々の影はやせ細り、落ちゆく葉もなく、ただ枯れ枝のみを虚しく風に揺らしている。うすぼんやりと浮かぶ、木々の骨たちの間をエパルたち歩いてゆく。手には弓を持ち、背中には矢を携えている。
 狩りか。
 だがこの森にはもう狐も兎もいない。鳥の鳴き声が聞こえる時もあるが、いつも遠い。
 枯れた木々には実はならない。かつては豊かな森として知られ、彩り豊かな果実で村人の喉を潤したその姿はもう跡形もない。
 エパルは凍りついた林檎を齧て、吐き出した。
 苦い味がした。
 どこかの国の言葉でその果実を指す自分の名。不吉にも感じられるがすぐに気持ちを切り替える。
 弓の弦をぴんと張り、感覚を確かめる。何度もやた最終確認。
 だが、今度こそ本当に本当の最後だ。
 森はやや傾斜し、下り坂になている。
 先頭に立つピサンがよりゆくりと慎重に歩く。
 霧の中でわずかに揺らめく光が見える。
 皆目はいいがさすがに霧の中ではよく見えない。だが、好都合でもある。
 慎重に斜面を下り、人影が見えるところまで近づく。
 そして、弦を張り矢をつがえ、放つ。
 ひん。
 ぎ、という蛙に似た短い悲鳴。
 それを合図に皆音もなく走り出す。
 腰に携えた思い鉈を抜き放ち、目についた人間の首元を次々と掻ていく。
 静かに、だが、凄惨に。
 重く、鋭い刃は時には人の頭を首から切り離す。
 エパルたちの部族がが首狩りと呼ばれる所以だ。
 重心が刃先にあり、異様に重いその武器と遠心力を利用した独特の斬撃は首を切ることに特化しており、部族だけに伝承される特殊な戦闘様式だ。
 役に立たない技術になりかけ、形骸化どころか失われようとしていたその時、戦争が始また。
 西の大国と東の小国の戦争だ。
 その戦争はエパルたちの部族を巻き込んだ。
 山間部に住んでいた彼らの部族はその屈強さを買われ、今、戦場にいる。奇襲にゲリラ戦。初めのうちは未開の部族として辛酸を舐めてきたが、今やその戦闘能力は称賛され、兵士たちには尊敬のまなざしを向けられる。
 戦争が栄誉を連れてきた。
 首狩り。
 もはや、それは侮蔑の言葉ではない。
 我らが技を世に知らしめ、その術が真当な評価を受ける時なのだ。
 首を狩る。
 潜血にまみれ、宙に舞う首に睨まれながら、エパル達は誇りを感じていた。
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