てきすとぽい
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第12回 てきすとぽい杯〈紅白小説合戦・紅〉
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鐘の音の行方
(
げん@姐さん
)
投稿時刻 : 2013.12.14 23:44
字数 : 1168
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鐘の音の行方
げん@姐さん
遠い昔、わたしは、わたしの家族は、とても貧しか
っ
た。
そのためか、教育も足りず、善悪の区別も曖昧で生きるためにパンを盗む以上のことをしても、ち
っ
とも心は痛まなか
っ
た。
教会のシスター
たちは、食べ物をくれたけれど必ず説教がついてくる。
神が全て見ていますよ。懺悔なさい。
こんなことを続けていてはだめですよ…天罰が下ります。
神が見ている?
見ているだけの神ならいなくていい。
こんなことを続けなければ、わたしは生きて行けない。
そんなわたしにと
っ
て、いずれ下される罰など恐るに足りない。
成長するにつれ教会から足は遠のき、かわりに足が向いたのはマフ
ィ
アのアジトだ
っ
た。
下心があるにせよ、彼らはシスター
以上に食べ物も衣服も与えてくれたし、説教もしなか
っ
た。
けれどや
っ
ぱり彼らには下心があ
っ
て、いつしかわたしには衣服のように武器が与えられるようにな
っ
た。
ゴミのように扱われていたわたしを、彼らは筋がいい、飲み込みが早い、と褒めちぎ
っ
た。
す
っ
かりおだてられ、ナイフの扱いに長けた暗殺者になる頃、最早仕事をしなければ食べ物が与えられなくな
っ
ていた。
成長期に栄養の足りなか
っ
たわたしは、身長の伸びもいまひとつでいつまでた
っ
ても子どものような見た目だ
っ
た。
その見た目も手伝
っ
て、仕事は割とうまくい
っ
た。
ある日の仕事が、結果的にわたしの最後の仕事にな
っ
た。
端的にいえば返り討ちにあい、暗殺に失敗し、そのまま相手に身柄を拘束されたのだ。
これだけ聞けば、わたしは殺されると誰もが思うだろう。
わたしだ
っ
てそう思
っ
た。
だが驚くことに相手はわたしに教育を施し、衣食住を与え、ありふれた感情を呼び起こさせ、あまつさえ恋愛までさせた。
幸せだと、思
っ
ていた。
けれど、神は見ていた。
シスター
の声が蘇る。
いつか、天罰が…
走馬灯のように様々な記憶が再生される。
その大部分は仕事の記憶。
それは人殺しだ
っ
たけれど、あくまで仕事だ
っ
た。
たまに派手に反撃されて返り血を浴びたこともあ
っ
たが、それはいつでもわたしの心を冷やしてい
っ
た。
だからず
っ
と、血は冷たいんだと思
っ
ていた。
なのに、いま、彼の傷口から止めどなく溢れる血は炎のようで。
その血に触れたところぜんぶ、あつくて息が苦しい。
報復には、報復を。
天罰が下るなら、わたしのはずなのに‼
自分の中の血が煮えたぎる。
ず
っ
と手放せなか
っ
たナイフを知らず握り締めた。
けれど、長いこと鞘から抜かずにいたナイフが、使える状態である訳がない。
こんなに錆びた刀じ
ゃ
なにも切れない。
わたしは、どうするべきなのか。
昔の自分を取り戻すべく身体を鍛え直し、ナイフを砥ぎ、報復すべきか。
彼の与えてくれた刀の錆びる幸せだ
っ
た人生を握りしめ悲しみに打ち震えるか。
決めるなら、今。
彼の亡骸がまだわたしの胸の中で暖かいうちに。
彼に誓おう。
遠くの教会で鐘が鳴る。
わたしの心は、決ま
っ
た。
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