てきすとぽい
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第12回 てきすとぽい杯〈紅白小説合戦・白〉
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メニカ
(
犬子蓮木
)
投稿時刻 : 2013.12.14 23:43
字数 : 2094
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メニカ
犬子蓮木
1
夜。
たすけてくれ、と目の前の人がい
っ
た。
その言葉は聞いた。だけど無視した。
古びた木の杖の先から、光を発し、目の前の人間を照す。影が伸びて路地裏の壁に高く広が
っ
た。そしてだんだんとその影が短くな
っ
ていく。光が弱くな
っ
たわけではない。目の前の彼が、ゆ
っ
くりと光の取り込まれて消えてい
っ
たのだ。
わたしは魔法使い。
蒸気技術が栄えた今ではもう少なくな
っ
てしま
っ
た魔の者の末裔だ
っ
た。数が減
っ
たということは仕事にありつける可能性が高いということである。仕事さえ減らなければの話だが、仕事の減る心配は当分しなくてよさそうだ
っ
た。
だ
っ
て、世の人間は、人間を憎むようにできているのだから。
3
雪が降
っ
てきた。こういう日はできるだけ早く帰りたくなる。寒いわけではない。魔法を使えば、じぶんの周りの気温ぐらいは自由に調節できる。ただ、家で眠
っ
ているジ
ュ
カが心配だ
っ
たのだ。
風邪をひいたりはしないだろうか。
家を出たとき見た感じでは、布団をし
っ
かり被
っ
ていてすやすや寝息をたてていた。たぶん、心配のしすぎなんだろう。なんだから笑えてくる。
じぶんの子供でもなんでもない、ただ偶然引き取
っ
ただけの男の子に、どうしてこのわたしがそんなにな
っ
てしま
っ
たのかはわからない。
き
っ
とジ
ュ
カだけが使える魔法なんだろう、なんてや
っ
ぱりわたしらしくないことを考えてしまう。
さあ、今日も仕事をしよう。
ジ
ュ
カを育てるにもお金がいる。
今日のター
ゲ
ッ
トは決ま
っ
ていた。ある家の娘。親が誰かに恨まれていて、それでわたしのところに依頼があ
っ
た。かわいそうだけど、消えてもらうしかない。
かわいそうだけど
……
。生きる為に他の生物を殺すことは許されている。法ではなく、世の在り方として。
ター
ゲ
ッ
トの家の少し前で姿を消した。それからゆ
っ
くりと近づいて門を開ける。部屋の場所はわか
っ
ていた。壁に穴をあけて、彼女の部屋へと入る。
少女が寝ていた。
年齢は十歳。ジ
ュ
カと同い年だ。
すやすやと寝息をたてていて、き
っ
と親からしてみればものすごくかわいいのだろうな、というのがわかる。以前はわからなか
っ
たが、ジ
ュ
カと過ごしたこの一年ぐらいで、それがわかるようにな
っ
た。
だけど、わかるだけだ。
持
っ
ていた杖に力を込める。
杖の先が光、その光が少女を包み込む。この光が外にもれることだけが心配だ。さらに上から魔法をかけることで消すこともできるけれど、そこまで考えるのはめんどうだ
っ
た。
まあ、すぐに終わる。
ち
ょ
っ
とぐらい噂が広ま
っ
ても問題はないだろう。
光をとめる。
かわいらしく寝ていた少女はもうこの世には存在しない。否、姿だけは残しておいた。さきほどと同じように目を瞑
っ
ているが、動きはもう、なにもない。
肉体を消さなか
っ
たのはサー
ビスだ。
それぐらいはこの子の親に残しておいてあげてもいいだろう、と思
っ
た。不思議なことだ、と思う。今まではそんなことを考えたこともなか
っ
たのにね。
「ごめんね、殺しち
ゃ
っ
て」
わたしは女の子の頬を撫でた。それから手を上にあげて、体をのばす。
さあて、帰るとしようか。
あ、壁は戻しておかなく
っ
ち
ゃ
。
5
家に帰
っ
たら、ベ
ッ
ドの中でジ
ュ
カが青ざめて震えていた。どうしたのだろう。魔法で火を出してあげたけど、それだけで大丈夫なようにはならなか
っ
たので、ジ
ュ
カの部屋から暖炉のある部屋へ連れて行
っ
た。
暖かい山羊の乳をコ
ッ
プにいれて、少し砂糖をまぜてからジ
ュ
カに渡した。
「大丈夫?」
「
……
うん」ジ
ュ
カが力なく答える。
「悪い夢でも見た?」
「ううん
……
」
「寒か
っ
たからね、調子悪くな
っ
たかな。そうだ、雪が降
っ
てるよ。朝にな
っ
て元気にな
っ
たら遊ぼうか」
「知
っ
てる
……
」
なんで知
っ
ているのだろう。ず
っ
と寝ていたら、気付かないはずだ。途中で起きて窓の外を見た? この部屋に来るまでの廊下には窓はないし、この部屋のカー
テンはしめている。
「僕、メニカの仕事を見ち
ゃ
っ
たんだ」
7
どうやらジ
ュ
カはわたしが人を殺すところを見てしま
っ
たらしい。
説明をして、少しだけ落ち着かせてから部屋まで連れて行
っ
て眠らせた。
さて、どうしよう。
こうい
っ
たことを解決できる魔法は存在しない。存在しないから、魔法使いは迫害されてきた。
人間と魔法使いは価値観が違う。生きる為に肉を食う人間は多いが、生きる為に人を殺すことを良しとする人間は少ない。魔法使いはそこに境を作らないのだけど。
カー
テンをあけると雪がつも
っ
ていた。
やわらなくて暖かそうだ。
だけどさわると冷たいということも知
っ
ている。
難儀な世の中だよ、ま
っ
たく。
見ている思
っ
ていることと経験の違い。意識と価値観と生き方の違い。個人差、種族差に性差。違いばかりで軋轢と混乱と争いが生まれる。
そんな諍いから仕事をもら
っ
ている身だけど、もう少し平和でもいいよな、と思う。
じぶんの周りぐらいは。
だけど、そんな違いをおもしろいと思うじぶんもいることは確かだ
っ
た。
そうでなければ、魔法使いでもない人間の子供なんてひきと
っ
たりはしない。
ねえ、ジ
ュ
カ。
わたしは魔法をひとつ唱えた。
なんてことはない、子供が元気になるおまじないを、ひとつだけ。
た
っ
たそれだけをして、眠ることにした。
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