第12回 てきすとぽい杯〈紅白小説合戦・白〉
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魔界都市 最強民族に越中泥棒困惑す
投稿時刻 : 2013.12.14 23:43
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魔界都市 最強民族に越中泥棒困惑す
伝説の企画屋しゃん


 それは年が明けて間もない、一月の日曜のことだた。
 渋谷駅の南口には、突如としてまばゆい球体が現れた。
 バスターミナル周辺を行きかていた人々は足を止め、血の気の引いた顔で何事かと息を呑んでいた。
 近頃では、日本も徐々に不穏な空気に包まれつつある。
 新手の兵器か、あるいは常識を超えた何らかの自然現象なのか。
 自然のものとも、人工のものともつかない球体の強い輝きに人々は恐怖を抱いていたが、立ち去る者は一人もいなかた。
 一体これから何が起きるのか。
 身の危険よりも、好奇心が先に立ていたのだろう。

「なあ、あれはなんだ? テレビ局の悪戯か?」
「つか、お前、ホワイトを日本語で言てみろよ」
「し・・・て、NGワードだろ、それ!」

 混乱しているようで、群衆は予想以上に冷静だた。
 都会の人々は、基本他人のことには無頓着だ。
 興味があるとすれば、それが自分にとて得なのか損なのか。
 この街に暮らす者なら老若男女とわず、その程度のことは誰でも知ていることだた。

 果たしてあの謎の球体は、我々にどのような影響を及ぼすというのか。
 固唾を呑みながら人々が見守る中、球体は徐々に圧縮されるようにしぼんでいた。
 やがて球体は光の筋となり、そして人の形へと変貌していた。
 雪のように小さな光が弾け飛び、気がつけばそこには見慣れない出で立ちをした西洋人が呆然とした面持ちで 立ちすくんでいる。
「オー、ドコデスカー、ココーハー。ワタシノ芸者ガール、ドコイキマシタカー。セカク、イイ気分デ乳クリアテイタノニ、ナンナンデスカー
 西洋人は、古めかしい軍服を着ていた。しかし、よく見れば銃器の類を所持しているわけではない。ほんの数秒の間、人々はその特異な光景を分析していた。そして、西洋人の慌てふためく様を見ているうちに、一つの確信を得るに至たのだ。
 こいつは、無害だ。おそらくタイムスリプか何かで、戦後の日本から飛ばされてきたのだろう。
 安堵の溜め息と、気落ちした声があたりを支配する。
「んだよ。時空のポケトに落ちた奴が、たまたまここに現れただけか。俺らにはなんのメリトもない話じん」
 一人のつぶやきに呼応するかのように肯くと、人々は踵を返し、各々の目指す方向へ散らばた。
 西洋人に関心を抱く者は、もはや一人もいないようだた。
「ふえええ。どうして? なんで、みんな驚かないの? タイムスリプだよ? タイムスリプ」
 たまたま北陸某所から上京していた作家志望者は、泣きそうな顔を右に左に向けていた。
 驚くべきは、未来から飛ばされてきた軍人ではなく、冷淡な魔界都市の住人だ。
 小説は人を描くもの、という。
 それならば、この状況を前にして自分は何を描けばよいのだろう。
 今度は自分が、迷路という名のポケトに吸い込まれてしまたかのようだた。
 軍人の戸惑いの声が聞こえる。
 頭の中が、まし・・・、もとい、何も考えられなくなていた。
 ただ通り過ぎるだけの人々の足音を聞きながら、作家志望者はもう一度、ふえええとつぶやいた。
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