てきすとぽい
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クリスマスイヴぼっち小説大賞&ぼっちついのべ
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ぼっちクリスマス
(
山本アヒコ
)
投稿時刻 : 2013.12.24 23:32
字数 : 3567
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ぼっちクリスマス
山本アヒコ
世間はクリスマスだ。誰も彼もがうかれている。
特にカ
ッ
プル。デー
トをして、プレゼントを渡して、キスをして
……
ま
っ
たくも
っ
て腹が立つ。
隣の部屋がうるさい。安アパー
トの薄い壁は防音の役目を全く果たしていないのだ。うるさいのはいつものことだが、毎年クリスマスの時はより激しい。
すでに時刻は午前二時を過ぎているというのに。はじま
っ
たのが午前零時、日付がイブからクリスマスに変わ
っ
たぐらいのはずだ。お盛んなことだな。
この騒音に悩まされるようにな
っ
てからすでに五年が経過していた。最初隣に住んでいたのは、一人の大学生だ
っ
た。
男友達をつれて来ていたときはまだ良か
っ
たが、五年前に彼女と同棲するようになると最悪なことにな
っ
た。薄い壁越しに甘
っ
たるい話し声が聞こえ、夜になると狂
っ
たようにベ
ッ
ドがきしむ音が鳴り響く。恋人いない歴数十年の自分にと
っ
てそれは拷問でしかない。
それも男が大学を卒業するまでかと我慢していたが、就職した後もこの安アパー
トで同棲し続けたのだ。八畳ワンルー
ムに二人で暮らすなど大変だろうからさ
っ
さと引越しするだろうと思
っ
たが、なんと何年も暮らし続けた。しかもだ、二人の愛はどんどん燃え上が
っ
ている。
壁越しに二人の会話を聞き続けていたせいで、二人がどうい
っ
た状況なのかも把握していた。そもそも同棲もお互いの親から反対されていたらしい。それを押し切り同棲をはじめ、また反対されていた結婚も大学卒業と同時に籍を入れた。なるほど、そういう理由なら二人の愛が燃え上がるのも頷ける。うん、がんば
っ
てくれ。
そう言えるのは、関係ない場所に立つ人間だけだろう。自分のように毎日何年間もその余波を浴び続けてみろ。絶対に精神を病む。実際最近は常に頭痛がする。睦み事の音で睡眠も取れない。
いい加減に我慢の限界だ
っ
た。文句を言
っ
てやりたいが、コミ
ュ
障の自分に、赤の他人へ話しかけることなどできない。大家に言えばいいと思うだろうが、自分はコミ
ュ
障だ。
では何をしたのかと言うと、イタズラ電話だ。
『はい、もしもし』
高めの若い声。自分は何も喋らない。それどころか受話器を持
っ
てもいなか
っ
た。床に置いている。
『もしもし?』
しばらくして電話は切られた。気にせず漫画を読む。単行本を読み終わると、受話器を元にもどした。今日はこれでおしまい。
『あなた、今日無言電話がかか
っ
てきたの』
『え
っ
、それで何かあ
っ
たのか』
『ううん。一回だけだ
っ
たから』
『それならただのイタズラだと思うな』
『そうね』
そんな会話を壁越しに聞く。うん、これでよし。
一週間後、再びイタズラ電話をかけた。
『もしもし』
無言でいると切られる。すぐにもう一度電話。無言、切られる。
『またイタズラ電話がかか
っ
てきたの』
『一回だけ?』
『ううん。今度は二回』
それからランダムに回数と間隔を空けてイタズラ電話をした。さすがに警察へ連絡しようかという会話が交わされると、イタズラ電話をやめた。
『イタズラ電話がこなくな
っ
たの』
『よか
っ
たじ
ゃ
ないか』
次にハガキを書いた。あて先は隣の部屋。あて名は主人の名前。
でたらめな会社名を考え、そこのダイレクトメー
ル
っ
ぽいものをパソコンで作り、プリンター
で印刷。それをポストへ投函した。
最初はどこにでもあるダイレクトメー
ルだと思うだろう。しかしそれが数日おきに何度も来るとしたら不思議に感じるはずだ。
『どういうことかしら?』
『こんな会社知らないしなあ』
二人がそんな会話をした翌日、少し違う文章のハガキを投函した。
そのハガキが届くであろう日、高鳴る胸を押さえながら部屋で息をひそめる。バイクの音。これは郵便配達のバイクだ。
自分の部屋を通りすぎ、隣の部屋へ郵便物を投函した音が聞こえた。思わず壁へ耳を貼り付ける。
『これは』
不審そうな女性の声。想像の中で自分が作
っ
たハガキを凝視している姿が浮かぶ。
『え!』
自然にガ
ッ
ツポー
ズをしてしま
っ
た。声が出そうにな
っ
て慌てる。
前回までと今回のハガキで違うのは、その文章だ。そこにある仕掛けがしてあ
っ
た。それは縦読み。横書きの文章の行の頭の一文字を縦に読むと『愛している誰よりも』という文章になるのだ。
これは賭けだ
っ
た。ハガキを不審に思
っ
てもこれに気付かない可能性があるし、そもそもハガキを不審に思わない可能性もあ
っ
た。その賭けに勝
っ
たのだ。たぶん次の作戦もうまくいくだろうと、そう思
っ
た。
『あなた、あのハガキがまた来たんだけど』
『そうなんだ。何か変なところがあ
っ
たの?』
『ううん。いつもと同じ
……
』
その夜、二人の会話を聞いてほくそ笑む。明日が楽しみだ
っ
た。
自分は受話器を取り、ボタンをリズミカルに押す。
『もしもし』
「はじめまして。私、XXX探偵事務所のIという者ですが、そちらはH・Dさんのお宅で間違いないでし
ょ
うか」
『え? はいそうですが』
「実は私、今とある人の依頼で浮気調査をしていまして」
準備していた全くの嘘を話す。
調査を頼んだのは一人の男性。最近妻の様子がおかしいから、と。どうおかしいかと聞けば、なぜかやたらハガキを買
っ
ているようだ。調べると確かにその通りだ
っ
た。それにパソコンとプリンター
を使
っ
て印刷しては、せ
っ
せとポストへ入れている。しかしその内容まではわからない。
そこで依頼者の妻の調査をしてみれば、以前に浮気をしていた様子があ
っ
た。しかも別れていた。その時期とハガキを買い始めた時期が一致している。
「そこで私は推測を立てました。彼女は別れた浮気相手にハガキを送
っ
ているのではないかな、と」
『どうしてハガキを?』
「ストー
カー
は何百通とメー
ルを送るじ
ゃ
ないですか。それのハガキ版ではないかと。それでですね、最近そちらに不審なハガキは来ませんでしたか」
『
……
』
小さな、しかし受話器越しに聞こえる息をのむ音。自分の口元が笑
っ
ているのがわかる。
「心当たりがあるようですね」
『そんな! あの人が、そんなこと
っ
!』
「それでですね、実はその人だけではないのですよ」
『え』
探偵事務所はどこも横に広いつながりがある。情報を共有することも多い。探偵の仕事は浮気調査が多く、今回の調査のついでに他の事務所の探偵に話を聞いてみたところ面白い話を聞いた。
そんなデタラメな嘘を言う。
「複数の人妻と関係を持
っ
ている男がいるらしいのです。まあ、人の趣味は様々ですけど、男の風上におけない人間ですね」
『それがなにか?』
「言いにくいんですが
……
その男があなたのご主人ではないかと」
『ふざけないでください!』
叩きつけるような音とともに電話が切れた。いや、叩きつける音は実際に聞こえていた。隣の部屋から。
「くくく
……
」
笑うな。笑
っ
てはいけない。自分の口を両手で押さえて笑い出さないようにする。
『どうしたんだい。なんだか顔が暗いけど』
『なんでもないの』
その夜は隣の部屋が騒がしくない初めての日だ
っ
た。記念日だ。
それからは忙しい日々だ
っ
た。イタズラ電話を再開し、様々なトラ
ッ
プをしかけた。
例えば古典的なピンポンダ
ッ
シ
ュ
。すぐ隣の部屋だからそれほど難しくない。ただ自分の部屋のドアを閉めるときや、走るときになるべく音をたてないようにするのが大変だ
っ
た。
他には女物のピアスやヘアピンなどを転がしておいた。場所はドアのすぐ下や、郵便受けに放り込む。それと朝の新聞に。長年の観察の結果、新聞を取りにくるのが妻だとわか
っ
ていたからだ。
それにしても早朝の新聞に仕込むなんてかなり不気味だと思うが、どうして警察に行かなか
っ
たのだろう。夫を信じていたからか、またはだからこそシ
ョ
ッ
クだ
っ
たのだろうか。どうでもいいことだけれど。
それとベランダにタバコの吸殻を投げ入れたりした。隣同士のベランダはかなり近いので簡単だ
っ
た。頑張れば飛び移れるほどしか離れていない。やらなか
っ
たけど。
タバコは夫婦とも吸わないので、ここにあるのはそれ以外の人間の仕業だと考えることだろう。銘柄も女性が吸
っ
ていそうなものにした。というか女性が捨てた吸殻を拝借した。ホー
ムレスの人に奪われそうにな
っ
たけど、その前にゲ
ッ
トしたのだ。
いやしかし、この程度で自分の夫が浮気していた、しかも複数の女性となんて思うのかなあ。自分でや
っ
たわけだけど、かなり杜撰な手口だし。
ラブラブすぎたからその反動かも。や
っ
ぱりリア充は怖いわ。
『!!!!!!』
『!!!』
隣の部屋の音はさらに大きくな
っ
た気がする。時計を見るともう午前三時をまわ
っ
ていた。
こんなにうるさいとサンタクロー
スも来れないんじ
ゃ
ないかな。
あ、二十五日の夜に来るんだから大丈夫か。まだ二十五日にな
っ
たばかりだし。
おお、壁に何か当た
っ
たな。何を投げたんだろう。
『!!!』
奥さんのあんな声はじめて聞いたな。うるさいけど我慢しよう。なにしろ今日は聖なる日だ。
メリー
クリスマス。今日はいい日になりそうだ。
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