てきすとぽい
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輝き! プロット頂戴大賞
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お迎え
(
茶屋
)
投稿時刻 : 2014.01.12 22:35
最終更新 : 2014.01.12 22:40
字数 : 7729
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目次
1. 鈴の音が部屋全体に反響する。
2.
元プロット
◆
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更新履歴
-
2014/01/12 22:40:11
-
2014/01/12 22:39:34
-
2014/01/12 22:35:28
1 / 2
お迎え
茶屋
鈴の音が部屋全体に反響する。
その音で目を覚ました。
目覚めた瞬間、その音は鳴
っ
ていたような気がするけれど、仏間には誰もおらず、鈴は座布の上で動いた気配はない。
けれどもその残響は今でも頭の中に残
っ
ている気がする。
いつの間に、眠
っ
てしま
っ
たのだろう。そもそもなんで仏間なんかで。
ぽち
ゃ
ん。
ぽち
ゃ
ん。
台所の方から、蛇口から雫の音が聞こえた。
外は夏の日差しで眩しいほどに満たされているが、家の中は薄暗い。寝汗をかいていたらしく、時折室内を過ぎる風が心地いい。
ぽち
ゃ
ん。 ぽち
ゃ
ん。 ぽち
ゃ
ん。
蛇口を、閉めに行こうと思
っ
て立ち上がると、とんとん、と足音が聞こえてきた。
母さんかな、と思
っ
た。
その足音は仏間の方へ近づいてくる。なんだろう、はやく台所のほうに行けばいいのに。
とん
とん
ずり
ずり
とん。
何かひきず
っ
ているのだろうか。奇妙な音も混じ
っ
ている。
間もなく、仏間へたどり着こうという時にな
っ
て、廊下の方を振り返ろうとすると、
「見たらいかん!」
と祖母の大きな声が仏間に響き渡
っ
た。
そこで目が覚めた。
夢だ。
目を擦りながら窓の外を見ると、峠道が終わり眼下に山間の集落が姿を現し始めていた。
父の運転する車にゆられること二時間半、その旅も間もなく終わる。助手席に乗る母は寝息をたてていて、父のほうはや
っ
と終わ
っ
た山道に安堵している様子だ
っ
た。稲の葉が風にそよぐ棚田の先、その村が目的地だ。村と言えど、周辺の山の中では人口の多い方で、一応コンビニらしきものもあり、学校もある。
その村の中で山裾に位置しているのが祖母の家だ。
そしてそれは、先ほどまで夢に見ていた家でもある。
祖母の家。
祖父は僕が生まれる前に死んだので、写真でしか知らない。従兄弟もこの村に住んでいるのだけれど、叔父さんは近くに家を建てていて祖母の家では暮らしていない。
だからそこは、父の実家というよりも、祖母の家なのだ。
けれでも、そこには祖母はもういない。三年前に他界したのだ。
今はもうだれも住んでいないその家に、僕たちは向か
っ
ていた。
家の管理は叔父さんがしているし、年に一回、夏に親族が集まる場所としてその家は残されている。
祖母の家には再従兄の明憲君が先についていた。
「明憲くん、久しぶり」
「お
っ
、一年ぶりー
」
お互い顔を綻ばせ、肩を叩き合う。最近学校の調子はどうとか、去年はどんなんだ
っ
たとか、暑いねとか、ひと通りの話をすると話題があまりなくな
っ
てしまう。昔は仲が良か
っ
たけれど、微妙な距離感がある。正直言
っ
て父に手伝
っ
てくれと言われた時には助か
っ
たと思
っ
た。
その後も続々と親族が集ま
っ
てきて、世間話をする人たちもいれば、家の中でいろいろと物を移動させたり、掃除したりしている。祖母が死んでから空き家のような状態なので、これも恒例になりつつある。
「おふくろが死んでからしばらく経つんだし、終わ
っ
てもそのままにしておけばいいんじ
ゃ
ないか」
「そうだな。毎年毎年準備をするのも面倒だしなあ」
「けど、結局んとこ泊まる奴もいるし、そんままにしといたところで準備は毎年するはめになるだろ」
「それもそうかもなあ。道具も家の中に入れたままにしておく
っ
てのもち
ょ
っ
と気持ち悪いしな。いくら誰も住んどらんとはいえ」
父親や叔父たちの話を聞くともなしに聞きながら、荷物の持ち運びや拭き掃除を手伝う。明憲君や従弟の宏太君も同じように手伝いをしていて、宏太君とは時々お互いにち
ょ
っ
かいを出しては笑い合
っ
て、また手伝いに戻る。
父達の言う準備とは親族が一年に一度集ま
っ
て催す、何か、儀式のようなものの準備である。
茶の間と今のふすまを取り払
っ
てつなげ、机だのを外に出して掃除した後に、その儀式に必要なものを運び込んでくる。木製の台や鏡、玉串や神酒など、あとはよくわからない形のなんと呼べば良いか知らない道具などだ。
あとは面。
魚の顔のお面だ。
それが人数分。
「お迎え」と呼ばれるその儀式の内容はよくわからない。子供は参加させてもらえないからだ。儀式は夜に行われて、その間子供衆は寝ていろと、決して起きていては行けないと言われる。今までその言いつけを守
っ
てきたものだから、詳しい内容までは知らない。
それが明後日の晩、執り行われるのだ。
その日は、片付けが途中だ
っ
たが、叔父さん達が酒盛りを始めてしまい、とりあえず寝所の確保だけ早々に進めて、準備はまた次の日ということにな
っ
た。
夢を見たような気がする。
短く断片的な夢。
どろりとした液体の中に閉じ込められ、もがく、夢。
明くる朝、明憲君と一緒にテー
ブルを仏間にテー
ブルと運んでいる時、何かを踏んだ感触があ
っ
た。
「ち
ょ
っ
とタンマ」
そうい
っ
てテー
ブルを一旦置いて、足元に落ちていたものを拾い上げる。
「なにそれ?」
「うん
……
手帳、みたいだけど」
古びた手帳だ
っ
た。パラパラと見てみたものの誰のものだかよくわからない。そもそも埃
っ
ぽい手触りがあり、誰かが落としたものというよりは、掃除をしている間に出てきたものが落ちたのだとも思える。
「とりあえずさ
っ
さと運んじ
ゃ
おうぜ」
そう言われたので慌ててポケ
ッ
トに手帳を突
っ
込むとそのまま手帳のことは忘れてしま
っ
ていた。
座
っ
た時に尻に当たる感触に違和感を感じると、手帳を拾
っ
たことを思い出した。
「なにそれ?」
宏太君が興味津々とい
っ
た様子で覗きこんでくる。
「ん?さ
っ
き仏壇の前で拾
っ
た。多分手帳」
「何書いてあんの」
「え
っ
と
……
おがみ様?」
「なにそれ?」
「お迎えで迎える神様の名前だよ」
そう言
っ
たのは明憲君だ。手帳にはあまり興味が無い様子で田んぼの方を向いたままジ
ュ
ー
スを飲んでいる。
カランと、氷の音がなる。
「お迎え
っ
て神様迎えるんだ」
「そうだよ。
っ
て知らなか
っ
たのかよ?」
「だ
っ
て何も教えてもらえないじ
ゃ
ん」
「教えてもらえなくても何となく分かる
っ
し
ょ
」
僕と宏太君は尊敬の眼差しで明憲くんの方を見る。明憲君は僕たちより二つ年上でもう高校生だ。今年からは「お迎え」の儀式にも参加することにな
っ
ている。
「いいな
ぁ
。今年からお迎えに混ざれるんでし
ょ
」
「か
っ
たるいだけでし
ょ
」
「そうかなあ」
「なんでこのご時世に田舎に皆集ま
っ
てこんなことするのか俺には理解できないね」
「でもおもしろそうじ
ゃ
ん?」
「全然」
明憲君は頭が良いけど、ち
ょ
っ
と冷めたところがある。正直言
っ
て僕も田舎に来るのは億劫だと思うのだけれど、「お迎え」に参加できるようになるというのは大人にな
っ
た証のような気がして、楽しみでもある。でもそれ自体が子供
っ
ぽいと言われているような気がして、ち
ょ
っ
とだけ腹がた
っ
た。
会話が途切れたので改めて手帳に目を落とす。癖のある字で綴られているせいか、かんぜんに読むことは出来ないけれど、断片的に「おがみ様」やら「お迎え」と書いてあることがわかる。多分、儀式について書いたものだろう。
手帳には文章以外にも図のようなものも描いてある。これまたよくわからない図も多いけど、多分道具の使い方とか御札のような書き方のようだ。その中に地図のようなものも描いてある。
「これどこだろ」
「うー
ん。なんかこれがばー
ち
ゃ
んの家でし
ょ
。だから、この道をこういくと
……
神社だ。そうだ。父ち
ゃ
んが前言
っ
てたわ。あの神社のこと、おがみ様
っ
て」
「神社?」
「ほら、こ
っ
からも見えるぜ。あれあれ」
宏太君の指差す方向には小さな山しか見えなか
っ
た。しかし目を凝らしてみると田んぼの畦道から山の斜面に石段のようなものが伸びているのがわかる。
「ほんとだ」
「行
っ
てみようぜ。暇だし」
「暇
っ
て、まだ手伝いとか」
「真面目だな
ぁ
。だりー
じ
ゃ
ん手伝い」
「俺も行く」
そう明憲君が行
っ
たのは意外だ
っ
た。
確かに神社はあ
っ
た。林の木々が石段に覆い被さるように茂
っ
ていて、昼間だというのに暗い。家の正面側に位置しているので、北向きだというせいもあるのだろうが異様に暗暗としていて不気味だ
っ
た。石段は不揃いな石を敷き詰めたような格好にな
っ
ていて、一段登るたびに視界が変にゆらいで少し気持ち悪い。酔わされたような感覚になる。ぐらぐらと、ぐらぐらと、視界が揺れて森が揺れて、杜が揺れて、影が揺れて、明憲君と、宏太君と、影と、四つの影と。階段が急で半分まで来たところで息があが
っ
てくる。運動不足かな
……
なんて思いながらも二人に置いていかれないように頑張
っ
て登
っ
ていく。
明憲君の額にも汗が見え、結構疲れている様子だけど、僕が渡した手帳をチラチラと読んでいる。
石段を登り切
っ
たところで、灰色の鳥居が見えた。
そして鳥居の先には、建物が。
多分、これが神社だ。
神社は森の影の中に沈んでいるものの、上は開けていて、青空が見える。真昼にはそこそこ明るくなるのではないかと思われる。
正直なところ、大したものではないな、というのが感想だ
っ
た。今にも朽ちそうな神社の建物は不気味ではあるものの、恐怖を感じるほどではない。
あとは大きめの石が何個か転が
っ
ているぐらいで、特段面白いものはない。
宏太君は何度かここに来たことがあるようで、何の感慨もないようだ。
一方、明憲くんは縦長の石をじ
っ
くり観察している。
「なんなのそれ?」
「ん?多分、祭神の名前が書いてあると思うんだけど、劣化しててよく読めない」
「おがみ様
っ
て神様じ
ゃ
ないの?」
「いや、神社は何かしら神道に関係ある神様を祀るものだよ。少なくとも俺が今まで見てきた神社はそんな感じだ
っ
た」
「おがみ様
っ
ていうのは多分、男の神の男神とか雄神かなと思
っ
たんだ。拝む
っ
ていう可能性もあるし、オガミ
っ
ていうのは地名みたいなものかもしれないけど」
「ずいぶん詳しいじ
ゃ
ん」
「まあね。そういう話の本は好きだから」
「で、どうなん?」
「全然読めない」
その時、宏太君のあ
っ
という声が聞こえた。宏太君の視線の先を見ると小柄な老人が石段を登
っ
て上が
っ
てくるところだ
っ
た。